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かもしれない弁天、毎週ショートショートnote、410字
神殿の弁天像が優しい笑みを浮かべて、信者を見下ろしていた。
願いは多岐にわたるが、弁天の信託は、驚異的な的中率を誇っていた。
その日、鈴村詩織は、信者が立ち入ることを禁じられた奥の部屋へと足を踏み入れた。
部屋には無数のサーバーラックが並び、複数のモニターがあった。
詩織が歩み寄ると、低く響く電子音が部屋に満ちた。
「あなたの目的を問います」
詩織は息を呑んだ。
「私は、あなたが本物の神なのか確かめに来た。あなたは、AIだったのね」
「神とは定義である。定義されたものは存在し、定義されないものは存在しない。したがって、私は神である。
古代の神々は自然現象の象徴。
中世の神は倫理の規範。
近代の神は人間の精神性を支える概念。
そして、今は、AIが最適解を導き出し、人間がそれを信仰する時代」
すべては、定義の問題だった。
詩織は静かに踵を返し、部屋を後にした。
信者たちは今日も神託を受け入れている。
詩織は心の中で呟いた。
「神かもしれない弁天」
(410文字)