見出し画像

強いお化け、ハロウィンノベルパーティー2024

10月の番号の日付に該当のお化けの話を投入します。

#ハロウィンノベルパーティー2024

#強いお化け


強いお化けが百年ぶりに復活した。
強いお化けの体は、触れるものすべてを吸い込み、無に帰すような黒い霧で覆われていた。

その霧は空間そのものを侵食し、周囲の温度さえも急激に下げることができた。目は血のように赤く燃え、その視線で木々を枯らし、地面に焦げた痕を残すこともできた。

声を発すると、町全体に振動を与え、空気を歪めるような圧力があった。指を一振りすれば、ビルが崩れ去るほどの力を持ち、町一つを一瞬で廃墟に変えることなど造作もなかった。

それほど、強いお化けだった。

何もかもを破壊し、人間どもを震え上がらせるために町に降り立った。人々は怯え、逃げ惑い、命乞いをする……はずだった。

だが、今回は違った。現れた瞬間、町にいる若者たちは、スマホを取り出して写真を撮り始めた。
「これ、ヤバい!ヤバい!」

口々に叫び、すぐさまSNSに投稿していった。誰も逃げなかった。誰も恐れなかった。むしろ、近づいてくる者すらいた。全員が目を輝かせ、画面をじっと見つめ、誰が一番早く投稿できるか、誰が一番迫力ある映像を撮れるかを競い合うように指を動かしていた。

「この黒い煙、マジでエフェクトかと思った」
「やばい!バズる気しかしない!」

笑い声が聞こえる。お化けが放つ圧倒的な恐怖のオーラに、誰一人怯えようとしなかった。周囲に集まった若者たちは、お化けがどれほどの危険な存在であるかを想像することすらできない様子だった。若者にとって、お化けの存在はただの「コンテンツ」に過ぎなかった。現実と非現実の境界が曖昧になった現代社会で、お化けの姿はフィルター越しに加工された虚構の一部のように映っていた。

「もっと近くで撮りたい」
「動画で撮ったほうがインパクトあるよね」
「これは絶対トレンド入りするでしょ」

声が飛び交い、お化けが視線を送るたびに、その目の前で笑顔でポーズを取る若者たち。彼らは、目の前の異常な状況を現実の脅威として認識できないどころか、その脅威を利用して自己承認を得ようとしていた。

SNSの「いいね」や「シェア」、そしてフォロワー数の増加、そんなものが、彼らにとっての現実であり、目の前の恐怖は彼らにとって虚構でしかなかった。

お化けは困惑した。
かつては、その存在だけで街を恐怖に陥れたというのに、今は誰も怯えない。むしろ、自分の圧倒的な力が、自己表現のためのツールとして消費されている。若者は、黒い霧が命を吸い取る力を持っていることすら知らず、ただの「クールな演出」として捉えている。

ニュースを見ない彼らは、危機や死、恐怖といった現実に向き合ったことがない。目の前の存在がどれほどの危険を孕んでいようと、それが実際に自分たちに害を与えるとは微塵も考えていなかった。

「マジで来週のパーティーでもこのエフェクト欲しいわ!」
その声を聞いた瞬間、お化けはついに諦めた。この町で恐怖を与えることは、もはや不可能だということを悟った。

何人かを目の前で殺せば……? いや、それさえも演出として楽しませてしまう。こんな状況で『SNSにあげる俺、すごい』と言うわけのわからない満足を与えてしまう。お化けの力は、ここではただの娯楽、SNS上での一瞬の「いいね」を稼ぐためのものに過ぎなかった。お化けはかつてのように人間たちを支配し、恐れられる存在ではなくなっていたのだ。

お化けは、静かに霧を収め、再び闇の中に姿を消した。お化けが消えたあとも、SNSには彼の姿を捉えた写真や動画が溢れ返り、トレンドのトップに躍り出ていた。誰も恐怖など感じていなかった。ただ、自分がその瞬間を「シェア」したこと、それによって「いいね」を集めたこと、それだけが彼らにとっての現実だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?