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緑のお化け、ハロウィンノベルパーティー2024

お題 緑のお化け

10月の各番号の日付に、そのお題の小説を公開するノルマ

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とある山あいの古びた庭園。

そこにはいつも、鮮やかな緑が広がっていた。庭の木々は見事に葉を茂らせ、苔はふかふかと柔らかく、季節を問わず鮮やかに輝いていた。

花は昼夜問わず咲き乱れ、訪れる人は誰もが感嘆した。そんな庭園には、緑の苔に住み着いた「成長を促す緑のお化け」がいるという噂があった。お化けが通った場所には、必ず植物がぐんぐんと成長し、あっという間に緑で覆われてしまうため、庭師たちは「庭の緑の守り神だ」と感謝し、敬っていた。

庭師見習いの少年、平三郎は、先輩たちから、夜中に園内に入るなと言い聞かされていた。だが、彼はその言葉を無視し、好奇心に駆られて庭園を歩き回ることにした。月明かりが庭園を青白く照らし、ひっそりと静まり返った中、平三郎は、小さな緑のお化けを見つけた。お化けは、木陰にじっとしゃがみ込んで、小さな声ですすり泣いていた。

「どうして泣いてるんだい?」
平三郎が声をかけると、お化けは驚いて振り返り、緑色の涙をぽろぽろと流しながら、もじもじと答えた。

「君には関係ないよ」
お化けはそう言ったが、しばらく沈黙した後、ぽつりと打ち明けた。

「僕は、植物を育てるのは得意なんだ。僕が歩いた後には、木々や苔が元気になって、どんな草花もすぐに大きくなる。でもね、僕自身は全然成長しないんだ。僕はただの緑色のお化けのままで、自分の姿も、力も、何も変わらないんだよ」

お化けは再び涙をこぼした。
その涙もまた、草の葉先に落ちた瞬間、キラリと輝きながら苔に吸い込まれ、そこから新しい緑が芽吹く。平三郎はそんな姿をじっと見つめ、深く考えた。

「君は、植物に力を与えるすごいお化けだろう? みんな君のおかげで庭が美しいって言ってる。庭師のみんなも、この庭の訪問客も、君がいるから元気になれるんだよ」

お化けは首を横に振った。
「そうだとしても、僕自身は変わらない。僕がどれだけ植物を育てても、自分が成長できるわけじゃないんだ。ずっと小さいまま、いつまで経っても、未熟な緑なんだよ」

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ここで話は分岐します。
この質問に対する、平三郎の答えを選択し、続く文章を読んでください。

A

「でもね、お化け、君が成長しなくても、君の力を受け取った草木や花は、君の分まで立派に育ってるじゃないか。君がいなかったら、この庭はどうなってたと思う? 苔は枯れて、花はしおれて、みんな元気を失ってしまうだろう」→①へ

B

「木や花は、自分たちで育っているんじゃないんだよ。君が力を与え続けてきたから、成長できたんだ。つまり、君は“この庭そのもの”なんだ。植物が育てば育つほど、君の存在は大きくなるんだよ」→②へ





「そうか、みんなに力を与えるから、ぼくは大きくなれないんだ。もう力を分けるのをやめるよ」

平三郎はハッとした。
「えっ、それは……いや、ちょっと待ってよ、そんなことしちゃダメだよ!」

だが、お化けはもう動き出していた。体から、これまでのように柔らかな緑の光が放たれることはなく、庭の花や木々は急にしおれだした。ふかふかだった苔も、みるみるうちに色褪せてしまい、庭園全体が命を失ったように、緑色の鮮やかさを失い始めた。

「やめてくれ! お前の力がなかったら、この庭は……!」
平三郎は叫んだが、緑のお化けは静かに首を横に振った。

「僕も大きくなりたいんだ。今までずっと、小さくて力のないままだった。僕がこの庭をずっと緑で覆ってきたけれど、結局それは、自分自身を犠牲にしてただけなんだ……」

その言葉を聞いた瞬間、庭中の緑が一斉に色を失い、ただの灰色に変わってしまった。花はしおれ、苔は乾き、木々の葉は風にさらさらと散っていく。

「僕だって……僕だって、成長してみたいんだよ!」

お化けの体が、ぎゅっと収縮し、みるみる小さくなっていく。力を与えるのをやめたせいで、お化け自身もまた、力を失いかけていたのだ。

平三郎はそんなお化けの姿を見て、がくりと膝をついた。

「僕は消えちゃうのかな」

その言葉を聞いた平三郎の胸に、何かが閃いた。

「待って、わかった! お前は成長する必要なんてないんだ!」
平三郎は慌てて叫んだ。

お化けは驚いて、平三郎を見つめた。
「どういうこと?」

「君が成長しないことが、僕たちの成長なんだよ!」

お化けは黙り込んだまま、目をしばたたかせた。
「ちょっと、何言ってるのかわかんない」
緑のお化けは、そのまましぼんで消えていった。






お化けはハッと息を飲んだ。

「僕が……この庭そのもの……?」

「そうだよ。君がこのままの姿でも構わないんだ。庭全体が君なんだ。庭の草木が大きくなるというのは、君自身が大きくなるのと同じなんだ」

お化けの体が、かすかに輝き始めた。

「僕が……僕が庭で、みんなの成長がぼくの成長だったなんて……」

「そうさ。君は“縁の下の力持ち”なんだよ。誰にも気づかれないかもしれないけれど、君なしではこの庭も、木々も、花々も育たなかったんだ」

お化けはしばらく黙り込み、やがてその顔にゆっくりと笑みが浮かんだ。

「僕が小さいままでも、ぼくは庭として、ちゃんと成長できていたんだね……」

「そう。だから、これからもこの庭を見守り続けてくれ。君が変わらないことが、みんなの、そして、君の成長を守るんだ」

お化けは深くうなずき、緑色の涙を流した。その涙は再び鮮やかな緑の輝きを取り戻し、庭の苔に吸い込まれた瞬間、苔や草木が命を吹き返したように美しい色を取り戻していった。


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