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人型のお化け、ハロウィンノベルパーティー2024

お題 人型のお化け

10月の各番号の日付に、そのお題の小説を公開するノルマ

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 人型のお化け「ハジメ」は、自分がどんなに完璧にお化けらしい技を披露しても、誰もそれを本気で信じてくれないことに苛立っていた。

 夜ごと町を徘徊し、人々の前に現れては必死にアピールしてみても、その見た目があまりにも人間そっくりなせいで、ただの変な男扱いをされてしまうのだ。

「ちくしょう、こんなはずじゃないのに」
 ハジメは肩を落とし、何度も人前で怖い顔をしてみたり、不気味な笑い声を出してみたりした。でも、返ってくるのはいつも冷ややかな視線。

 そんな彼を見たお化け仲間たちは、嘲笑するばかりだった。
「お前、人間みたいだから怖がられないんだよ。お化け失格だな」

「僕は本物のお化けだ!」
 ハジメはある夜、お化けであることを証明することにした。これまで隠していた力を解放し、人間にできないことをして見せれば、きっとお化けだと認めてくれるに違いない。
 彼は町の広場に集まった人々の前に現れ、静かに口を開いた。

「これから、俺が本物のお化けだということを証明してやるよ!」

 ハジメはそう言うと、目の前の壁に向かって一歩踏み出した。人間たちは、目を見張った。次の瞬間、ハジメの体は壁をすり抜け、向こう側にすっと現れた。さらに彼はゆっくりと宙に浮き上がり、手を広げて宙を舞い始めた。


「どうだい!?」
 ハジメは得意げに叫んだ。
「こんなこと、普通の人間にはできないだろう? これでも僕がただの人間だって言えるかい?」

しかし、予想していた恐怖の叫び声は上がらず、代わりに人々の間から「おおお~っ!」と大歓声が上がった。

「すごい! 本物のマジシャンだ!」
「どうやってやってるんだ!?」
「あの壁すり抜け、マジックのタネがわからないぞ!」
 人々は拍手喝采し、次々とスマホを取り出してハジメのパフォーマンスを撮影し始めた。

「えっ?」
 ハジメは目をぱちくりとさせた。
 まさか、こんな反応になるとは思っていなかった。彼はもっと人々が「キャー! お化けだ!」と叫び、逃げ出すことを期待していたのだ。それなのに、すごいショーを見せたような扱いじゃないか。

「いや、違うんだ! 僕はマジシャンなんかじゃない! 本物の、お、お化けだってば!」
 ハジメは宙に浮いたまま、あわてて抗議した。だが、それを聞いた人々は、さらに大きな声で笑い始めた。

「ハハハ、冗談きついぜ! お化けだなんて」
「君、演技力もあるんだな!」

「違う、違う、違う!」
 ハジメは必死に叫んだが、誰も言葉を真に受けようとしない。それどころか、お化けアピールをするたびに、町の人々は、ますます彼を讃え始めた。
「いやー、彼は本当に役者だな」
「こんなリアルなお化けマジック、見たことないよ!」

「どうしてこうなるんだよ。僕はただ、人間たちに怖がってほしかっただけなのに!」
 彼は地団駄を踏んだ。

 ハジメは最初こそ必死に、自分のことをお化けだと叫んでいた。でも、次第にその状況を受け入れるようになっていった。どんなに本物のお化けだとアピールしても、誰もそれを信じてくれず、またまた冗談を、と笑われるだけ。むしろ、本気で抗議するたびに、観客たちはますます彼を面白がるようになった。

「まあ、いいか。こうやって人間たちが集まってくれるんなら、ちょっとくらい楽しませてやってもいいかもな」
 ハジメはついに観念し、観客の前で自分の能力を駆使して、次々にリアルすぎるお化けマジックを披露するようになった。

 宙に浮かぶ、壁をすり抜ける、消えては現れる。毎晩見せる彼のパフォーマンスは瞬く間に評判となり、ついには全国のテレビ番組からもオファーが来るようになった。

 ついに彼はマジックの第一人者としてデビューした。
「まあ、結果オーライってことかな」

 こうして、お化けとして恐れられることは叶わなかったものの、彼はマジシャンとして町のアイドルになり、毎晩大勢の観客の前で、本物のお化けにしかできないショーを披露し続けることになったのだった。

「でも、僕、本当にお化けなんだけどね」と呟きながら。

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