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道路のお化け、ハロウィンノベルパーティー2024

 

10月の番号の日付に該当のお題でお話を書きます

 ひとけのない山道の横断歩道で、車が見えない何かにぶつかり大破するという事故が、たびたび起きていた。事故現場はいつも同じ横断歩道。警察は不審に思い、アオキ警部補が部下のササキを助手席に乗せ、覆面パトカーで深夜の道を現場へと向かうことになった。

 現場に到着すると、薄暗い道の先に、女性が横断歩道を渡ろうとしているのが見えた。アオキは反射的にブレーキを踏み、停止線で車を止めた。しかし、隣のササキは首をかしげ、不思議そうに尋ねた。

「アオキさん、なんで車を止めたんですか?」

「何って、あそこの女の人が横断歩道を渡ろうとしてたじゃないか。ほら、今、車の前を歩いてるだろう」
 アオキは説明しながら、歩く女性を目で追った。

 その時、対向車線に大型トラックが近づいてくるのが見えた。しかし、トラックは全くスピードを落とす気配がない。アオキは思わず息を飲んだ。女性はまだ横断歩道の上を歩いている。次の瞬間、トラックは女性にぶつかり――そう見えた。

 だが、女性は全く影響を受けることなく、平然と横断歩道に立っていた。逆にトラックのフロント部分が電柱にでも衝突したように大破し、スピードを失って停止した。

 アオキは急いでパトカーの回転灯を点け、ササキに事故処理を指示した。そして、女性のところに駆け寄る。
「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」

 女性は冷静な表情でアオキを見つめ、淡々と言った。
「大丈夫です。私はこの世のものじゃないから。夜になると、ここを往復しているの。よそ見運転や居眠り運転をする人を許さないわ」

「こんな時にふざけないでください。とにかく、病院には行きましょう」
 アオキは女性の手を取り、パトカーまで連れて行こうとした。
 
 パトカーの前では、トラックの運転手とササキが話をしていた。ササキがアオキの方に振り返り、報告する。
「アオキさん、運転手さんは無傷みたいですけど、頭を打ったみたいなので、一応救急車を呼びました」

「そうか、じゃあ、この人も一緒に……」
 アオキは女性を指差した。

 ササキは困惑した表情で首を振る。
「アオキさん、誰もいませんよ。ふざけてるんですか?」

「ふざけてなんていない!」
 アオキは苛立ちながら反論した。
「この女性だよ。さっき横断歩道を渡ってたじゃないか!」

 ササキは運転手の方に視線を移し、運転手も首を横に振った。
「私にも何も見えませんでした。運転している時、急に何かにぶつかったんですけど、それが何かは全く見当たらなくて……」

 アオキは半信半疑だった。こんなに鮮明に姿が見える幽霊などいるものか? 自分は幻覚でも見ているのか? とはいえ、今の状況を説明するには、彼女の言葉を信じるしかなかった。
 
 アオキは混乱し、頭の中で状況を整理しようとした。どうやら、霊感のある人間にしか彼女の姿は見えないらしい。
「君は、一部の人間にしか見えないようだ。もうこんな無駄なことはやめなさい」
 アオキは女性に向き直って言った。

 しかし、女性は薄く微笑んで答えた。
「じゃあ、他の方法を考えるわ」

 それ以来、彼女はアオキのパトカーの後部座席に座るようになった。反則切符を切るときには、彼女がそっと姿を現し、違反者たちに無言の圧力をかける。そのせいか、アオキに捕まった人は、二度と違反をしなかった。

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