
思い出の歌、ボケ学会
お題「思い出の歌」
ミッション 思い出の歌をテーマに笑い話を作れ
#ボケ学会
ーーーーー
幼い頃、家族で出かけた夏のキャンプ。
夜空の下、父がギターを片手に焚き火の前で歌い始めた。
風にそよぐ木々の音、川のせせらぎ、虫たちのハーモニーが絶妙に重なり、その音楽が大自然そのものの交響曲のように響いていた。
「この歌はお前たちが大きくなってもずっと忘れないだろう」
父が少し誇らしげな顔で言った。
その曲は、僕の心に深く刻まれ、いつしか「家族の歌」として特別なものになっていった。大人になって、何か人生でつまずくたびに思い出すのは、あのキャンプの夜の父の歌とギターだった。
そんな僕にも、結婚の約束をする彼女ができた。それは、彼女を紹介するために、僕の実家に向かっている途中での出来事だった。
「僕の家には、僕たち家族の歌があるんだ。僕の家族はこの歌と共に困難を乗り越えてきたんだ」
「素敵な話ね」
「苦しい時、悲しい時、試練に直面した時、その歌が僕たちに力を与えてくれるんだ。父も、この歌を歌いながら強く生きてきたんだと思う。僕もこの歌に救われたことが何度もあるんだよ」
「素敵な家族なのね。あなたと結婚するんだから、私も歌えるようにしたい。お会いした時に歌って、私の覚悟を伝えたい。聞かせて」
「じゃあ、歌うからね」
胸を張って声を上げ、歌い出す僕。
最初の声が空気を切り裂くように響いた瞬間、彼女はピタリと動きを止めた。口元が微かに開き、なにか信じられないものを見たように目を大きく見開いていた。
その表情は、驚きというよりも、何か強烈な衝撃を受けたようだった。感動していた。きっと感動しているんだと思った。
僕は気持ちよく歌い続け、すっかり曲に入り込んだ。
歌い終わると、満足そうに彼女を見つめ、得意げに微笑んだ。しかし、彼女は言葉を失ったまま、視線をさまよわせた。
なぜこんなにも驚いているのか、僕には理解できなかった。家族の歌なんだから、感動しているに違いないと思い、もう一度、優しく微笑みかけた。
「どうだった?」
彼女は引き攣った笑いを浮かべて答えた。
「あの……私、やっぱり、歌うのやめる」
「なぜ?」
「それ、ただの……洗剤のCMソングだよ」