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空のお化け、ハロウィンノベルパーティー2024

お題 空のお化け

10月の各番号の日付に、そのお題の小説を公開するノルマ



 ジョーンズは冷たい金属のコックピットに身を沈め、戦闘機を操縦していた。敵国の領空侵犯を受けてスクランブル発進をし、敵機を領空外へと誘導したところだ。あとは帰還するだけだった。

 青白い光が機体を包む中、突然、右の視界に何かが現れた。アメーバのように不定形で、透明なスライムのように波打ちながら、戦闘機のコックピットを覆う透明なキャノピーにぴったりと張り付いて、ゆらゆらと揺れていた。

 空のお化けだ。

 ジョーンズは一瞬目を疑った。
 すぐに機内に警告音が響き渡る。右エンジンにトラブルの兆候、そして次々に計器が異常を示し始めた。高度、燃料、温度、すべてが狂っていた。目の前の世界が崩れ始めた。

 脱出装置を作動させようとしたが、反応はなかった。ジョーンズは歯を食いしばり、機体にしがみつくしかなかった。エンジンが嘶くたび、身体は激しく揺れ、周囲の音が消えていく。すると、不意に耳元で声が響いた。

「どうした、このピンチを乗り越えられるか?」
 低く、聞き覚えのある声だった。それが誰の声か分かった時、ジョーンズの全身が凍りついた。空のお化けの声は、エドワードの声だった。訓練中に死んだ、あのエドワード。

 ジョーンズの頭の中に、その瞬間、過去の記憶が渦を巻いた。あの日、自分の操縦ミスで戦闘機が墜落し、エドワードは脱出できずに死んだ。自分のせいだった。そう思うたびに、彼の影が重くのしかかっていた。

 目の前のスライムのようなお化けは、ただ黙って、ジョーンズを見つめていた。エドワードがこの姿になって現れ、復讐しにきたのか? ジョーンズの思考は混乱していた。でも、今はそれに取り合う暇もなかった。呼吸を整え、ジョーンズは本能的に操縦桿を握り直した。機体を制御し、何とか持ち直そうと試みる。風の音が強まり、機体がぐらつきながら、ジョーンズの手は機体を立て直した。焦燥を超えた集中が、彼の全神経を研ぎ澄ませた。高度を維持し、スピードを調整し、徐々に基地へと戻る道筋を見つけた。

 無事に帰還したとき、スライムのお化けはふっと消えた。そして、その瞬間、エドワードの声が再び聞こえた。

「腕を上げたな、これなら安心だ」
 ジョーンズはその言葉に困惑した。もし恨みで現れたなら、そんなことを言うだろうか? それにしても、彼が何を望んでいるのか、ジョーンズには理解できなかった。ただ、お化けはもういない。静かな安堵が広がった。

 着艦した戦闘機は、調べられたが、なんの異常も見られなかった。

 5日後、ジョーンズが再び戦闘機に乗ったとき、同じ現象が起こった。右エンジンが異常を示し、計器が狂った。見れば、エンジンから煙が上がっている。

 しかし今回は、ジョーンズは冷静だった。手順を正確に思い出し、エンジンの制御に集中した。次々と異常に対応しながら、淡々と帰還を試みた。

 この不思議な現象に対処し終えた時、ジョーンズはようやく気づいた。エドワードは恨みなど抱いていなかった。むしろ、ジョーンズを救うために、今回のトラブルをあらかじめ模擬的に経験させてくれたのだ。

 彼はジョーンズがこのトラブルで、ミスを犯して死なないように、彼を試し、鍛えていたのだ。ジョーンズはエドワードの存在に感謝した。空のどこかで、彼は今も自分を見守っているのかもしれないと、空に向かって敬礼をした。

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