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だろう温泉、毎週ショートショートnote、裏お題、410文字
温泉に浸かると、おそらくこうなるだろうという未来が頭に浮かぶ温泉があった。
この温泉の研究に没頭していたのが、物理学者の山中だった。
水質、放射線レベル、微量元素の分析とその薬理作用、温泉に入った者の脳波などあらゆることを調べたが、物理的に説明できる要素は、どこにもなかった。
それでも、温泉に入った者たちは未来を見てしまう。そして、それが現実になる。
それでも、温泉で見る未来は、本人の不安や希望が作り出した想像に過ぎないーこれが彼の結論だった。
彼は自分でも、毎日温泉に入っていた。
そして、自分が、学会発表に行く途中に事故に遭い死ぬ未来を何度も見ていた。
今までは、まるで夢のように曖昧で、「だろう」温泉という名前通りだった。しかし、この日は、はっきりとした未来が見えた。
幻の中で、手にした発表原稿の題と結語が見えたのだ。
『だろう温泉の真実:入浴者の勘違い』
この温泉に未来を見せる力はない。現実を形作る量子効果の拡張に過ぎない。
(410字)
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あー、これは、あれですね。
そんなことを発表したら、殺すぞという温泉からの脅しですね。