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弱いお化け、ハロウィンノベルパーティー2024
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お化け界の怖がらせコンテストがついにやってきた。
お化けたちの中でも、年に一度のこのイベントは最も重要なものだった。大成功を収めた者は人間界でも「伝説の怪奇現象」として語り継がれ、名を刻まれる。それに参加していたのは、実力者たちばかり。巨大な身体を持つものや、幽霊屋敷の主、さらには遠くの物を自由に動かす猛者も揃っていた。
その中に、とても弱いお化けがいた。名前はプープ。小さな体に、透けすぎてほとんど見えないほど薄い霧のような姿。怖がらせのための力はないし、風に吹かれるだけで飛ばされてしまうほど無力だった。それでも、彼は今回のイベントにどうしても参加したかった。いつもバカにされてきた自分を見返すチャンスだと思っていた。
イベント当日、プープは舞台裏で震えていた。
他のお化けたちはそれぞれの特技を披露し、驚異的な恐怖を人々に与えていた。会場を揺らし、物を宙に浮かせ、冷たい風で空気を凍りつかせる――どれも強力なパフォーマンスだ。そして、ついにプープの番がやってきた。
「お前、どうやって怖がらせるつもりなんだ?」
舞台を終えて帰ってきたお化けが聞いた。いつもプープをバカにしていたカロディだった。
「うらめしやと呟くだけ」
そんな声を聞いて誰が怖がるというのかと、他のお化けたちから失笑が漏れた。
「じゃあ、最初に転んだら取り返しがつかないな」
カロディは、プープを転ばせようと、背中を押した。プープの体は軽くて、転ぶだけでは済まなかった。
プープは、床にゴロゴロと転がってしまった。
観客は「おや?」と反応した。転がり続けた拍子に、プープの身体が意図せずカーテンに絡まり、それが大きくめくり上がったのだ。さらに、プープは体にカーテンを巻きつかせながらどんどん上昇していった。カーテンの一番上に着いた瞬間、天井に吊られていたライトが次々と崩れ落ち、ドスンと床に突き刺さり、落雷が連続して起こったような轟音が会場全体に響き渡った。照明は次々と消えていき、舞台が闇に包まれる。
このとき、観客席の人々は完全にパニックに陥っていた。
「何が起こったんだ!?」
叫び声が上がり、恐怖に駆られ、大きな怪奇現象が始まったと勘違いしたのだ。薄暗い闇の中で、プープの体から自然に立ち上るかすかな霧が、さらに不気味さを強調していた。
さらに偶然にも、彼が巻き込んで落としてしまったライトのひとつが、古びたピアノの上にあった。そのライトが、ピアノの上を転がって床に落ちようとしていた。
ポロポロパラポロポロ、不気味なメロディを奏で始め、観客たちはこれが恐怖の演出だと思い込んだ。実際には、誰も意図していないただの事故だった。けれども、彼らにはそれが一連の見事な演出に見えてしまった。ガシャーン。
ピアノの上からライトが落ちた時、「きゃー」と言う悲鳴が響き渡る。
プープは、逆回転して、巻きついたカーテンをほどきながら舞台に落ちた。舞台の真ん中で倒れ込んだまま、立ち上がろうとしたが、カーテンに絡まったままの足が滑り、再び転んでしまった。その拍子にカーテンの端が大きく引っ張られ、天井に吊り下げられていた古びたシャンデリアが、軋みを立てながらゆっくりと揺れ出した。
それに気づいたプープは、冷や汗を浮かべながら必死にシャンデリアの下から逃げようとしたが、逆にカーテンがさらに強く引っ張られ、シャンデリアがついに根元から外れて落下した。
シャンデリアが床に激突すると、鈍い音が会場全体に響き渡り、その瞬間、天井のライトが次々とショートして火花を散らした。薄暗い会場が瞬時に完全な闇に包まれると、観客たちはパニック状態に陥った。
「出口はどこだ!?」
いう叫び声が飛び交う中、電力が切れた舞台裏では、停電と認識したセンサーが、電気を自家発電に切り替えた。
古い発電機が不規則に作動し始め、その機械音が、まるで低い唸り声のように響き始めた。
プープは再び立ち上がろうとしたが、その手がたまたま落ちたシャンデリアの破片に触れた。破片が床に転がり、その鋭いガラス片が古びたスピーカーにぶつかり、スピーカーが突然作動し始めた。
プープはささやいていた。舞台のマイクが作動していた。会場には、かすれた音声が突然流れ出した。
「助けて…助けて…」
不気味なプープの声が、機械の故障で歪みながら会場に響き渡り、観客たちはその声に凍りついた。
その直後、舞台の奥で何かが倒れる音が聞こえた。舞台裏にあった古びた小道具が積まれた棚が、シャンデリアの衝撃で崩れ落ちた。巨大な影が揺れ、倒れた木製の人形や壊れた家具が、暗闇の中で異様なシルエットを作り出した。観客たちはその影を見て、得体の知れない怪物が蠢いていると錯覚し、さらに悲鳴を上げた。
プープはその混乱の中でどうしていいかわからず、さらにパニックに陥っていた。必死にカーテンから抜け出そうと手足を動かしていたが、体が絡まり続けるばかりか、転んだ衝撃で近くにあった乾いた骨董品の時計を倒してしまった。
その時計が転がりながら、乾いた甲高い「カチ、カチ」という音を立て、突然止まった。観客たちは一斉に「何かが時間を止めた!時間が止まった!」と叫び、恐怖が一層深まっていった。
そして、その止まった時計が最後の一撃を加えた時、会場の中に突如として凄まじい風が吹き込んできた。プープがいつのまにかカーテンに巻き付いていた、窓を開けるための紐を、偶然カーテンと共に引っ張っていた。そのため、会場の一部の窓が開いてしまい、外から強風が入り込んだのだった。
その風は舞台の上を駆け巡り、さっき倒れた古い小道具やシャンデリアの破片が舞い上げたため、ホール全体に散乱した。風に乗って舞う影の数々と多量のガラス片は、観客たちにとってまさに異界の出来事に見え、彼らは絶叫しながら出口へと殺到していった。
その瞬間、パニックに陥った観客が会場の壁に吊り下げられていた大きな鏡にぶつかった。
「ガシャーン!」
大きな音を立てて床に落ち、割れたガラスが飛び散った。そのガラスに反射した光が、会場の壁に複雑な影を描き出し、巨大な怪物が会場のあちこちに立ち上がったように見えた。観客たちはその影を見て、恐ろしさのあまり気絶する者も出てくるほどだった。
プープはまだ状況を理解できていなかった。しかし、会場はすでに完全なカオスと化していた。彼の思いもよらぬ失敗が連続的に怖い出来事を引き起こし、それが一つ一つ重なって巨大な恐怖の渦を生み出していた。やがて照明が完全に戻った頃には、ホールは完全に崩壊状態で、観客たちは半数以上が逃げ去っていた。残った者たちも口々に、とんでもない怪奇現象を目撃したと語り始めていた。
プープは自分でも何が起こったのかわからないまま、最優秀賞をとり、恐怖の象徴として語り継がれ、以降「最も恐ろしいお化け、最恐のプープ」としてその名を広めることになった。そしてその夜の出来事は、いつまでも「伝説の怪奇現象」として人々の記憶に残り続けた。