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お屋敷のお化け、ハロウィンノベルパーティー2024


10月の番号の日に該当のお化けの話を投入します。

 古い屋敷を購入したのは、都会の喧騒から逃れたいという思いからだった。郊外の静かな場所にたたずむその屋敷は、確かに古かったが、風情があり、広々としていて、手頃な価格だった。家族はすぐに引っ越しを決め、数日後には新しい生活を始めた。

 ところが、引っ越してきた翌朝、不思議なことに気づいた。家の中がピカピカに掃除されているのだ。台所のシンクは輝き、床には埃ひとつなく、家具はすべて整然と並んでいた。
「誰が掃除をしたんだろう?」
 母が首をかしげるが、家族の誰もが手をつけていないと言う。
「まあ、いいか。とにかくきれいなのは助かるわね」
 母は笑って言い、特に気にしなかった。

 しかし、次の日も同じだった。家族が寝ている間に、家中が完璧に片付けられ、清潔に保たれていた。テーブルの上に散らかっていた書類や雑誌さえも整理され、引き出しに収まっている。父は能天気に感心していた。
「これは便利だな」
 でも、長男は少しだけ不安を覚えていた。

 ある夜、長男がリビングで夜更かしをしていると、薄暗い明かりの中、ふと誰かが動く気配を感じた。見ると、ぼんやりとした姿の女性が現れ、黙々と掃除を始めていたのだ。彼女は無言で手際よく家具を拭き、床を磨き、古びたカーテンをきれいに直していた。息を呑んで見守るしかなかった彼は、朝になって家族にそのことを話した。
「幽霊が掃除をしているんだ!」

 家族は最初こそ半信半疑だったが、やがてその言葉が真実であることを理解した。幽霊は毎晩現れ、丁寧に掃除を続けていた。しかし、奇妙なことに、家の中の内装が次第に変わり始めた。現代的な家具が少しずつ消え、代わりに重厚なアンティークの調度品が現れた。壁紙も剥がされ、昔の時代の模様に戻されていく。

 最初は、おしゃれだと思っていた家族も、次第に不安を感じるようになった。リビングには古い暖炉が復活し、キッチンには見慣れない調理器具が並ぶようになった。母が台所に入ると、そこにはコンロも電子レンジもなく、代わりに煤けたかまどが設置されていた。家族は、自分たちが知らぬ間に過去の時代に引き戻されていることに気づき始めた。

 ある朝、家族は目を覚ますと、自分たちが昔の衣装を着ていることに気づいた。父は黒い背広とシルクハット、母はドレスと帽子、子供たちも古い制服を着せられていた。驚いて鏡を見ると、顔つきまでどこか古めかしく感じられる。
「これは…おかしい。何が起きているんだ?」
 父は混乱しながら言ったが、その瞬間、またもやあの女性の幽霊が現れ、にこやかに微笑んだ。

「おはようございます、ご主人様。屋敷を元の美しい姿に戻しておきました。これで完璧です」
 女性──お屋敷のお化けは優雅にお辞儀をした。

 いつのまにか、幽霊は、何事もなかったみたいに屋敷の主人としての態度で振る舞っている。どうやら彼女は、自分がこの家を支配しているつもりで、現代の住人たちも自分の時代に引き込んでしまったようだった。家族は慌てて元に戻してくれと頼んだが、幽霊は首を横に振った。
「これが本来の姿ですから」

 その後も幽霊は夜な夜な現れては、家の中を念入りに掃除し、古い時代の雰囲気をさらに強めていった。家族は仕方なく、その幽霊による完璧な管理の中で暮らすことになった。しかし、次第に家族もその異様な生活に馴染んでいき、やがて彼ら自身も過去の一部として溶け込んでいった。

 近所の男性が散歩で通りかかり、お屋敷を見て言った。
「このお屋敷も空き家になってからだいぶ経つなぁ」

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