風の色から始まる物語、シロクマ文芸部
風の色恋沙汰には、神様も呆れていた。
風は風見鶏に恋をした。どの方向から自分が出現しても、必ず自分の方を向いてくれた、その顔が好きだったというのだ。
でも、風見鶏は風が嫌いだった。風上を向く性に反する行動ができなかっただけだった。できれば、じっとしていたかった。風は風見鶏の気持ちを確かめたくて、その日によって風向きを変えた。それでも、必ず自分の方を向いてくれるので、風は相思相愛だと確信した。
風は神様にあいだを取り持ってくれるように頼み、風見鶏はそっとしておいてほしい、風にあまり近づかないよう言ってくれと頼んだ。
神様は、二者の相反する願いを前にして、ため息を漏らした。風は恋に狂い、風見鶏はそれに応じることを厭い、両者の求めるものは同じ場所にはなかった。
神様はこの無意味な愛の奔流に呆れて、ふと一つの試みを思いついた。夜が来て、街が静まりかえる頃、神様は風にささやいた。
「一度だけ、風見鶏を試すがよい。明日の夜明け、息を止めて風見鶏の後ろに回れ。もしもその時、風見鶏が振り返るなら、それは愛だろう。もしも動かないなら、風見鶏の気持ちは明らかになる」
風はこの提案に喜び、翌朝のために一瞬、息を潜める練習をした。夜が明け、東の空がほのかに赤みを帯びるころ、風は息を止め、風見鶏の後ろから風見鶏を見つめていた。
街中の旗も、木々も、すべてが静寂に包まれた。風見鶏は朝焼けを背に佇んでいた。
風は息を潜めて待った。今こそ、愛が試される時だと。風見鶏は長い間、止まったままだった。何度も風に押され、何度も向きを変えたその体は、いまはそっぽを向いたまま動かなかった。風見鶏は微動だにしなかった。
風見鶏はただ、風の存在に従うだけで、その中には感情など何一つなかった。風が息を吹きかけなければ、風見鶏は動かない。ただの機械仕掛けの反応に過ぎなかったのだ。風は虚しさの中で、再び吹き始めたが、その心はかつてのように踊ることはなかった。風見鶏は相変わらず、淡々と風に従って動き続けたが、それは風にとって、もはやどうでもいいことだった。風は無感情に息を吹くだけの存在になった。
神様はその光景を見下ろしながら、再びため息を漏らした。風の色恋沙汰は完全に終わっていた。風は恋をしたのではなく、ただ自分の影を追い続けていたのだ。そしてそれに気づいた今、風はただ虚しく息を吐くだけの存在になっていた。
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面白いことを思いついた! と思って書きました。
後で読んで、どこかの童話にありそうな話だなと思いました。ググってみるとヒットしません。それで、公開しました。
風の失恋に同情します。
恋をしている時の心って、崖の上で軽やかにスキップをしているような感じですよね。相手も自分に気があると思えば、なおさらです。
周りに広がる風景は鮮やかで、崖の向こうには世界が広がり、空が高くて開放的。跳ねるたびに地面が弾んで、自分がフワフワと浮き上がっているような感覚に酔いしれることができます。
でも、失恋すると、足がもつれ、視界がぐらつき、重力が一瞬ですべてを奪い去るものです。
崖下に向かって落ちていく感覚は、心が暗闇に吸い込まれていくように感じるでしょう。
崖下に辿り着く頃には、もはや何も感じられません。
抜け殻のようになって、何もかもが遠く、どこかで起きている別の出来事のように思えてきます。
胸の中に空虚が広がって、鳥の声も、かつて鮮やかだった世界の色彩さえも、何一つ心に届かなくなります。
ただ、静寂だけがそこに横たわっています。そこから這い上がるのは至難の業ですよね。
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