お姫様らっこ、毎週ショートショートnote
村の大通り
一人のお侍さんが小走りでやってきて、遊んでいた子どもに語り掛けた。
「そこの子ども、今から、さる高貴なお方が駕籠で通過される」
「誰なのら?」
「お前がそんなことを知らなくてもよい。くれぐれも粗相のないように頭を下げなさい」
「わかったのら。こうやって頭を下げるのら」
「誰が立ったまま頭を下げろといった。土下座をするのじゃ」
「土下座って知らないけど、どうやってするのら?」
お侍さんは、よく見ておけと言いながら道端で土下座をした。それを見た子どもが言った。
「うむ。くるしゅうないのら」
「おぬし、わかってやらせたな。手打ちにしてくれる」
「やめるのら。高貴なるお方が通る道を下賤なものの血で汚すのはだめなのら」
「それもそうじゃのう。あ、来られたぞ。すぐに土下座をしろ」
しばらくすると、とても立派な駕籠がやってきた。
駕籠の布を押し上げて中の人が顔を出した。そして、頭を上げた子どもと目が合った。
「あ、お姫様らっ!」子どもがそう叫んだ。
(414文字)
いやいやいや、確かに「お姫様らっこ」が出てきたけど、これは、ショートショートじゃないのら。
ーーーー今度はショートショート
メスのらっこが、海岸近くで、人間の王子を見かけた。王子は小舟に乗り、穏やかな海を一人眺めている。
らっこが王子の舟にそっと近づくと、王子が振り向き、海面に浮かんだらっこと目が合った。美しい瞳がきらりと光り、王子は思わずそのらっこを愛おしく思った。
それかららっこは毎日、王子に会いに行った。王子はらっこに微笑みかけて二人は幸せだった。
やがてらっこは、王子ともっと一緒にいたいと強く願うようになった。日がな一日、王子のことばかり考えて暮らした。
ある満月の夜、海の神が現れ、こう言った。
「らっこよ、お前の願いを叶えてやろう。愛する人に人間の姿で会いたいのだな」
王子は、女性の瞳に浮かぶ優しさで、すぐに彼女が誰であるかを悟った。
「らっこ、君なのか?」
らっこは頷き、震える声で自分の愛を伝えた。
「王子様、私はただのらっこです。ですが、ずっとあなたのそばにいたいと願い続けてきました」
王子はらっこを城に連れ帰って結婚を宣言した。お姫様らっこの誕生に城の中は大騒ぎ。
なぜなら、王子以外の人間には、その姿がらっこにしか見えなかったから。
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