節分胎教、毎週ショートショートnote、425文字
鬼のための「節分胎教セミナー」に参加した。
先生の角は人間社会に馴染むよう短く整えられ、髪と同じ色に染められている。
「『鬼差別禁止法』のため、豆を投げられることは減りましたが、子ども同士のいたずらから豆をぶつけられることがあります」
黒板の「豆耐性ー胎教で獲得」という文字を見て、思わず口を開いた。
「角を隠すこと、豆耐性をつけること、それが本当に正しいこと?鬼としての誇りは?」
驚いた顔をした先生が、すぐに優しく微笑んだ。
「安全に、穏やかに暮らすためですが、どう育てるかは、自由ですよ」
節分の日、私はお腹の子に語りかけた。
「あなたの角は、誇り。でも、もしそれを隠したいなら、それもいい。豆に負けたくないなら、鍛えればいい。逃げたくなったら、逃げてもいい」
夜空の向こうで、人間たちが楽しげに豆を撒く声が聞こえた。
私は小さく笑いながら、そっとお腹を撫でた。
「あなたは鬼だけど、あなたはあなた。なりたい自分になってね」
お腹の中でぽん、と優しく蹴り返しがあった。
(425文字)