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長いお化け、ハロウィンノベルパーティー2024

お題 長いお化け

10月の各番号の日付に、そのお題の小説を公開するノルマ

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 長いお化けがいた。

 自分の体がどこまでも伸びていくことに気づいたのは、ある静かな夜のことだった。

 ふわふわと風に漂いながら、いつもは町の中や森の木々の間をさまようことしかできないと思っていたけど、その日、何気なくぐーんと空に向かって伸び上がると、自分の体が想像以上に長く、雲を突き抜けたことに気づいた。

「へえ、こんなに長く伸びるなんて、僕の体って面白いなあ!」
 長いお化けはその発見が嬉しくて、さらにぐんぐんと伸ばしてみることにした。空の上をどこまで伸びて行けるか試したくなったのだ。しばらくすると、長いお化けの体は雲を突き抜け、夜空の星々をも超えて、どんどん伸び続けた。

「まだまだ行けるぞ!」
 長いお化けはもう地上の景色など見えなくなっていたけど、それでも体を伸ばし続けた。そしてとうとう、月にまで届くことに成功した。

 月はひっそりとして、その表面には小さな丘や深いクレーターが点在し、どこか寂しげな雰囲気が漂っていた。長いお化けはそっと体を縮め、月の表面に降り立った。すると、そこにはふわふわと漂う、透き通った姿をした「月のお化け」がいた。

 月のお化けは、ひとりぼっちで月の上に佇み、地球をじっと見つめていた。
「いつか、誰かが僕のことを見つけてくれるだろうか」
 ボソッと、そう独り言を言った。長いお化けが近づくと、月のお化けは驚いたように目を見開いた。

「君、誰? どうやってここに来たの?」
 月のお化けは、突然の訪問者に驚き、少し戸惑っていた。

「僕は長いお化け。僕の体がどこまで伸びて行けるか試していたら、ここまで来ちゃったんだ」
 長いお化けは嬉しそうに説明した。

「へえ、そんなお化けが地球にいたんだね。僕は月のお化けだよ。ずっとここでひとりぼっちでいたんだ」

 月のお化けは少し恥ずかしそうに微笑んだ。
 その笑顔に、長いお化けは心を打たれた。そして、月のお化けがずっと寂しい思いをしていたことを知り、こう言った。

「それなら、僕が君の友達になってあげるよ! 毎晩こうして月まで体を伸ばして、君に会いに来る! そしたら、もう寂しくないだろ?」

 月のお化けは目を輝かせた。
「本当に来てくれるの?」
「もちろんさ!」
 長いお化けは笑顔で応えた。

 それからというもの、毎晩長いお化けは地球から月まで体を伸ばして、月のお化けに会いに行った。二人は月の表面でかくれんぼをしたり、クレーターの中で影絵を作ったりしながら、楽しい夜を過ごした。月のお化けはもう寂しそうな顔をしなくなり、二人の笑い声が月の夜空に響いた。

 やがて、月のお化けは地球の話を長いお化けから聞くたびに、嬉しそうな、寂しそうな複雑な表情をするようになった。「ねえ、長いお化け。僕も地球に行ってみたいな。君と一緒に、地球でいろんなお化けに会ってみたい!」

長いお化けはしばらく考え込んで、にっこりと笑った。
「それなら、僕と一緒に地球に行こうよ!」

 二人は手を繋いで、長いお化けの体を使って地球へと戻った。地球に到着すると、月のお化けはすぐに地球のお化けと仲良しになった。

 ところが、しばらくすると、月のお化けの体に異変が起き始めた。最初は少しずつ体が薄くなり、やがてふわふわと揺らいで、不安定な形に変わっていった。
「あれ? ぼくの体、どうしちゃったのかな?」

 月のお化けは不安げに自分の体を見つめ、長いお化けも心配そうに見守った。

「僕、どうなっちゃうの?」
 月のお化けは震える声で尋ねた。

 長いお化けはふと月を見上げ、ひらめいた。
「本のお化けは物知りだから、聞いてみよう!」

 長いお化けは月のお化けと一緒に本のお化けの家を訪ねた。「お化けの中には、自分の場所から離れられない者がいる。月のお化けは月からエネルギーを得ていたのだろう。地球に住み続ければ、やがて完全に消えてしまうぞ」

 月のお化けは悲しそうにうつむいた。
「じゃあ、僕はまた、月に帰らないといけないんだね」

「また毎晩、僕が会いに行くよ」

 月のお化けはしばらく考え、やがてうっすらと微笑んだ。「そうだね。僕は月に帰るよ。でも、また君が来てくれるなら、寂しくないよ!」

 長いお化けと手を繋ぎながら、月のお化けは、再び月まで戻っていった。

 それからというもの、長いお化けは夜ごと体を伸ばして、月まで行った。長いお化けが月へと体を伸ばしている姿は、夜の空に美しく輝き、空を綴じる縫い糸のように見えた。

 長いお化けがくねくねと夜空を渡る様子を見た人々は、それが「夜空を縫う糸」のようだと感じた。空が裂けそうになっていて、夜ごと現れる長い糸がその裂け目を縫い直してくれている。そう信じていた。だから、ふたりの友情を邪魔する者は誰もいなかった。

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