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蕎麦でも気球は浮かんでる、毎週ショートショートnote、410字
ナノテクノロジーを駆使して蕎麦を極限まで細くぼくし、軽量で強靭な繊維へと加工することで、編み上げた蕎麦の気球が完成した。空を飛びたいという人類の望みが叶った瞬間だった。
しかし、気球は完全な乗り物ではなかった。むしろ、欠点が多かった。気球は側面がふやけてよく墜落したのだ。
ただし、墜落しても、蕎麦そのものが非常時の食糧となったのは言うまでもない。山中で数日間も閉じ込められて、周囲に食糧がなくとも、気球の麺を、食べて生き延びることができた。蕎麦の気球は命を救う食料庫だった。
この時間軸においては、人々はたびたび墜落するという欠陥を無視し、むしろ有事の際に「食糧を提供する安全な乗り物」として気球の評価を固めていった。
他のパラレルワールドでは飛行機やジェット機、ロケットや宇宙船が開発され、空を超えて宇宙へと進出する科学技術が発展していく中で、この時間軸においては蕎麦の気球が最もベストな移動手段と見なされ、科学は停滞した。