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怒るお化け、ハロウィンノベルパーティー2024
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廃病院に住むお化けは、かつては訪れる者たちを恐怖に陥れることで評判だった。足音を響かせたり、物を揺らしたり、鏡に不気味な影を映し出したり、ありとあらゆる手段で脅かしてきた。
だが、最近ではその手法も効かなくなり、訪れる人々は怖がるどころか、逆に笑い声を上げる始末だった。
「全然怖くないじゃん!」
「子供騙しだな!」
口々に言う若者たち。お化けは怒り心頭だった。
「どうして怖がらないんだ!」
お化けは怒って叫び、ありとあらゆる能力を使って脅かそうと試みた。壁を叩き、床を軋ませ、冷気を漂わせても、今の若者たちはスマホを片手に笑いながら動画を撮るだけだった。
「ほら見て、お化けいるっぽい?」
まるでお化けが見世物のような扱いに、ますます激怒するお化け。だが、何をしても効果がなく、気力も尽き果てそうだった。
そんな時、一人の若い男が現れた。
ほかの人と同じく笑いながらお化けの脅かしを観察していたが、ふと彼は言った。
「いや、俺、VRのホラーゲームとかに慣れてるから、そんな簡単に怖がらないんだよ」
お化けはその言葉に一瞬呆然とした。
「VR?ホラーゲーム?」
今まで聞いたことのない言葉に戸惑いながら、思わず肩を落とした。
「テクノロジーには勝てないのか……」
お化けは悔しそうに呟いた。どうやら、自分が何十年も磨いてきた恐怖の技術は、今の時代では通用しないらしい。生きている人間の方が、恐怖に対する耐性が進化してしまったのだ。
しかし、その時、若い男がふとこう言った。
「でも、リアルさで勝負すれば勝てるんじゃない?」
お化けはその言葉にハッとした。
「リアルさ……そうだ!俺にはゲームにはできない恐怖の与え方があるじゃないか!」
お化けは突然元気を取り戻した。
自信を取り戻したお化けは、それからというもの、一切の手加減をせずに訪れる人々に全力で恐怖を与えるようになった。その噂は瞬く間に広まった。
「あの廃病院は本当にヤバい!」
「生きた心地がしなかった!」
口コミが広がった。廃病院は再び恐怖の名所として蘇った。
そんな廃病院から出てきた若者たちは震えながら語り合っていた。
「怖かった!マジで命の危機を感じたよ」
「やばいよな。もう二度と来たくない」
「でもさ……まさか、殴られるとは思わなかったよ」
「ほんと、予想外だよ。物理攻撃は反則だろ!」
そう、お化けは「リアル」を追求するあまり、人間の恐怖を研究し、殴る、蹴るという禁じ手に出たのだ。
「帰る時、口止めされたよな」
若者たちは肩をすくめながら帰路に着いた。物理攻撃のネタばらしをされることはなかった。
「まるで、人間みたいだったな」
「お化けなんかより、人間の方が怖いのかもな」