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おいしいお店(島根県松江駅)

#おいしいお店

 昼間にランチを提供する居酒屋は数多い。しかし、昼のランチタイムに酒、それも地酒を出す店となると、ぐっと数が限られる。

 今回、客人を島根に迎え、地酒を楽しむ会を設けるために、下調べを兼ねて昼の居酒屋巡りを決行した。名目は調査だが、正直なところ飲み歩きたいだけである(笑)。

 まずは、ランチ営業をしている店に「昼間から地酒が飲めるか」電話で問い合わせた。結果は予想通り、ほとんどの店が「ランチタイムにアルコールは出さない」とのこと。ランチメニューはどこも千円前後の定食がメインで、店側としても昼の回転率を重視しているのだろう。アルコールを出せば長居される恐れがあり、夜のように何品も頼んでくれるわけでもない。となれば、自然と昼に地酒を楽しめる店は限られてくる。

 条件に合い、客人の宿や駅から近い場所となると、ほぼ選択肢はない。そんな店を飲み歩いた。そんな中で、ピカイチの天ぷら海鮮米福 シャミネ松江店が見つかった。「シャミネ」は松江駅ビルの中にあるショッピングモールで、米福もチェーン店のようだ。電話で昼間に地酒が頼めるか尋ねると、二つ返事で「お出しできますよ」とのこと。さっそく、その店に一人で「潜入捜査」に向かった。

 席に案内され、メニューを見ると、予想通り天丼や天ぷら定食などランチメニューが並んでいる。だが、アルコールメニューはどこにも見当たらない。ふと調味料や箸の入った木箱の陰に小さなメニューが隠れているのが目に入り、手に取ると、そこにアルコールメニューがあった。どうやら、昼から地酒を頼めるが、積極的に勧めるつもりはないようだ。

 さて、島根の地酒リストを見てみる。

• やまたのおち 純米吟醸:辛さと酸味が際立つ超辛口。
• 月山 純米吟醸:スッキリとしたバランスのよい酒。
• 隠岐誉 純米吟醸:キレの良い酸味が特徴。
• 花かんざし 純米吟醸:華やかな香りとふっくらした旨味。
• 天穏 純米吟醸:穏やかな香りとやさしい甘み。
• 十旭日 純米吟醸:ドライでキレの良い口当たり。
• 誉池月 純米吟醸:リンゴのような華やかな香り。
• 出雲富士 純米吟醸:柔らかく飲みやすい味わい。
• 開春 純米超辛口:しっかりとした旨味の超辛口。
• 扶桑鶴 純米吟醸:繊細で優しい旨味、ゆったり飲める。
• 七冠馬 純米吟醸:肴を選ばないオールマイティーな味。
• 李白こだわり 純米吟醸:深い味わいとキレ。
• 石見銀山 純米吟醸:豊かな香りと米の旨味。

 地ビールも「大山Gビール ヴァイツェン」や「松江ビアへるん ヴァイツェン」が揃っている。

 ランチに合わせて頼むことにしたのは、「天穏」と「出雲富士」だ。オーダーが通り、よく冷えた出雲富士と天穏がそれぞれグラスに注がれて運ばれてきた。

「こちらが出雲富士で、こちらが天穏です」と若い女性の店員が説明してくれる。

 なるほど、違いは一目瞭然だ。出雲富士は濾過され透き通った色をしており、天穏は濾過をしていないため、薄い金色の光を放っている。飲み比べると、それぞれの持つ旨味と個性が際立ち、これは堪らない。本来なら、玉鋼(たまはがね)があるとベストなのだがこの店にはないようだった。

 だが、料理がなかなか来ない。酒を楽しみつつ、少しずつ飲み進めるうちに、気づけば両方のグラスが空になっていた。ようやく料理が運ばれてきたタイミングで、店員に小声で聞いてみる。

「メニューに載っていない地酒はありますか?」

店員が小さく頷き、「はい、地酒で『死神』と、地ビールで『美ビール』があります」と返してくれた。

いわゆる裏メニューというやつだ。死神は、島根県中央部で作られている酒だが、年間三千本程度しか作らない希少酒だ。メニューに載せて、注文が多くなり、しばしば欠品すれば信用を失うという判断だろうか。

「では、『死神』をお願いできますか? ちなみに、裏死神はありますか?」

「裏死神は…申し訳ございません、あいにく置いておりません」

「そうですか。では、死神と美ビールで」

まるで、危ない薬の売買のようだ。スリルとサスペンスの香りが漂う(違う)。「死神」は、縁起の良い名を避けてあえて付けられた酒名で、通常の淡麗辛口とは違うコクのある甘旨口だ。まるで波が引いていくように、飲み終わりにはふわりとフェードアウトする独特の余韻がある。

地ビールの美ビールも、天ぷら定食をおかずにゆっくりと味わう。酒飲みとは、酒とおかずを楽しみ、最後に締めとしてご飯を食べる生き物だ。この店はその点をよくわかっているらしく、テーブルにはご飯用にかけ放題のふりかけが置かれている。これをかけて、ご飯をしっかりといただき、ごちそうさまとなった。

割愛したが、この店には二度下見に行って、地酒を全メニュー制覇した。
 美味しい店とは、私にとって、酒が美味しい店ということだ。そして、酒を美味しく飲めるような演出がある。いい店を見つけたと改めて実感する昼のひとときだった。

最後に追加案内だが、松江駅で、(料理が不必要で)地酒が飲めたらいいという人の場合は、鷦鷯屋(ササキヤ)をお勧めする。店主のチョイスで毎日メニューは変わるが、3種類の地酒と簡単なおつまみをセットで注文できて、立ち飲みができる酒屋さんだ。

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