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楽しむお化け、ハロウィンノベルパーティー2024

10月の番号の日付に該当のお化けの話を投入します

#ハロウィンノベルパーティー2024

#楽しむお化け


最近、妙なことが続いている。

寝室のドアが勝手に開く。
キッチンの食器が勝手に落ちる。
ソファのクッションが知らぬ間に床に散らばっている。最初は風のせいだと思っていた。家が古くて隙間風が吹き込んでいるのだろうと、自分に言い聞かせていた。

でも、あまりにも頻繁だし、どうも風のせいには見えない。ある夜、ベッドの下からひょっこり現れたタオルを見つけたとき、これは風のいたずらなんかじゃないと確信した。それに、なにか、楽しんでいるような感じがする。気のせいかもしれないが、何かがぼくを見て、いたずらに満足しているような視線を感じることさえあった。

やがて、妙なことが起きるたびに、またか、と笑ってしまうようになった。例えば、朝、靴が片方だけ部屋に転がっているのを見つけても、何故か腹が立つどころか、苦笑してしまう。おい、やりすぎだぞって、ひとりごとをつぶやくことさえある。

ある晩、ぼくは、その正体を暴いてやろうと決心した。霊感など皆無だが、この家に何かが住み着いていることはもう疑いようがない。いっそ、はっきりさせてやろうと、夜更けに電気を消し、家の中で待ち伏せをした。

静かな夜。窓の外では風が木々を揺らし、遠くで犬が吠える声がかすかに聞こえた。ぼくはリビングのソファに腰掛け、目を凝らして周囲を見渡した。時計の針がカチカチと規則正しく刻む音だけが響いている。

ふと、視界の端で何かが動いた。キッチンのカウンターの上に置いたグラスがゆっくりと揺れたかと思うと、そのままカタンと倒れた。ぼくは静かに立ち上がり、カウンターに向かって歩み寄る。心臓が速くなるのを感じながら、目を離さない。だが、何も見えない。ぼくがいることを知っていて、行動に移すということは、やはり楽しんでいるに違いない。

「そこにいるんだろう?」
ぼくは声を出してみた。返事はない。

それでも、確かに何かがいる。視線を感じる。何が、ぼくの周りをふわりと漂い、探りを入れるためにぼくを観察しているようだ。

そのとき、ぼくの足元で小さな影が動いた。反射的に足元を見ると、そこには小さな猫の姿があった。目を疑った。やはり、猫だ。白い猫。どこから入ってきたのだろう。そんなことを考えていると、その猫は一瞬にして消えた。

「まさか…」
ぼくは頭の中で考えを巡らせた。あの姿は、子供の頃に飼っていた猫、ミーコによく似ていた。ミーコはぼくがまだ幼い頃、突然姿を消した。その時は、どこかで迷子になったか、車にでも轢かれたのだと思っていた。猫は20年以上生きていても不思議じゃない。今、目の前に現れたあの姿…まさか、ミーコが戻ってきたのか?

部屋の隅に何かが動くのを感じた。ぼくはゆっくりとその方に目を向けた。そこには、いたずらを成功させたことを喜んでいる子どものように、小さな姿が揺れていた。それは間違いなくミーコだった。ミーコがこの家に戻ってきていたのだ。

ぼくは思わず笑みをこぼした。なんだ、ずっとこの家でいたずらをしていたのは、ミーコだったんだ。いじわるというより、あの頃と同じように、ただ遊んで楽しんでいただけだったんだ。

子供の頃、ミーコはよく、ぼくの靴下を隠したり、テーブルの上のものを床に落としたりしていた。それが、いつの間にかこんな形で再現されていたのだ。

「ミーコ、お前だったんだな」
ぼくは静かに呟いた。返事はないが、空気がほのかに揺れた。ミーコは相変わらず、ぼくをからかうようにそこにいる。

ぼくは深く息を吸い、肩の力が抜けた。
「もうちょっと、静かにしてくれよ」
そう言うと、かすかに風が吹いて、部屋の中に穏やかな静けさが戻った。そして、ミーコが目の前をふわりふわりと飛んでいた。

僕はその時、はじめて、ミーコが死んじゃったことに気づいた。ミーコは消えて、二度と現れなかった。

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