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黄色いお化け、ハロウィンノベルパーティー2024



一週間遅れなので、怒涛の勢いで書いています。
お題 黄色いお化け

10月の各番号の日付に、そのお題の小説を公開するノルマ


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小さな女の子がテーブルの上にゆで卵を置いて、白い殻をむき始めた。白くてつるんとした卵の表面をじっと見つめ、やがて半分に割った。ぷるんとした白身だけを美味しそうに食べ、黄身の部分をためらいもなくポイとゴミ箱に放り込んだ。その瞬間、ゴミ箱の中から黄色い光がふわっと舞い上がり、空中に黄色いお化けが現れた。

「ひどい、ひどいよ! 白身だけ食べるなんて、僕を捨てるなんて!」
お化けは泣きじゃくりながら叫んだ。

女の子は驚いて後ずさりをした。
「なんで? 黄身は嫌いだもん。白身だけで十分でしょ?」
お化けはムッとし、怒りに震えながら彼女の目をじっと見つめた。

「偏食はダメだよ! 僕は卵の黄身の黄色いお化け。栄養たっぷりの君の健康の守り神なんだ。君が僕を捨てたら、きっといつか偏ったものしか食べられなくなって、不幸になっちゃうんだから!」

女の子は反論した。
「でも嫌いなものを無理に食べたって、幸せにはならないよ」

お化けは考え込んだ末、にやりと笑って、指を一本立てた。
「じゃあ、こうしよう! 君に好き嫌いをしない呪いをかけるよ」

その時から女の子の偏食はなくなった。そして、誰からも好かれる人気者になった。

それから何年も、お化けはずっと彼女のそばで見張り続けた。
そして彼女は大人になった。可愛らしい少女だった彼女は、偏食をしなかったおかげか、肌も髪もそして、顔も全身も美しい女性へと成長し、周囲の男たちの視線を集めるようになった。

ある日、彼女が男を家に連れてきた。粗野でだらしない、どこか信用できない雰囲気を漂わせる男だった。だというのに、彼女はその男の前で無邪気に笑っていた。お化けはハラハラしながら、成り行きを眺めていた。

「何が気に入ったの? こんなクソみたいな男、君にはふさわしくない!」

大人になった彼女は、お化けに気づくこともなく、男に寄り添い、甘えた声で話しかけていた。

それ以来、彼女には次々と男たちが寄ってくるようになった。
そして、彼女もまた、そんな男たちに次々と心を惹かれていった。

ある日、お化けはふと気づいた。

「しまった! 僕がこんな呪いをかけたからだ!」
お化けは悔やんだ。自分は彼女を守るつもりだった。好き嫌いをさせないことで、彼女を健康で幸せにしたかったのに、その結果がこれだとは。

そして、決心したお化けは、彼女が寝ついた頃、ベッドの横に浮かんでいた。

「もう、君を見張るのはやめるよ。呪いも解く。だから、これからは好きなものを食べていい。黄身が嫌いなら、もう二度と食べなくていいんだ」

うとうとしていた彼女はモゴモゴと返事をした。
「どうして? あなた、ずっと偏食はダメだって言ってたじゃない」

お化けは、優しく微笑んだ。
「確かに、僕は君に健康になってほしかった。でも、好き嫌いは大事だった。特に異性のは」

お化けは淋しそうに頷き、ふっと体が光り始めた。彼の黄色い姿は、ふわふわの卵の黄身のように輝き、やがて小さな粒となって消えていった。

「黄身を捨ててもいいから、ちゃんと自分の幸せを見つけてね」

それが、黄色いお化けの最後のお願いだった。彼が消えたあと、彼女はゆっくりと微笑んだ。

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