沈む寺、毎週ショートショートnote、410字
雲の上に空中寺院があった。村人たちは、その寺院に向かって祈りを捧げた。
ある日のこと、若い僧侶が空中寺院に選ばれた。僧侶の体は宙に浮き、雲の切れ間に姿を消した。寺院の門にいた老人が手を挙げると、寺院は二つに分かれた。
「それはお前の寺だ」
そう言うと老人と老人の寺院は、風に漂いながら消えていった。
僧侶は、村人のために念仏を唱え続けた。
ある日、寺の奥の部屋に小さな池を見つけた。僧侶が覗き込むと、そこに映るのは遥か下の彼の故郷で、村人たちが雨乞いをする姿が映っていた。僧侶は池に飛び込んだ。
池の底の石を動かすと水は下界へと落ちていき雨になった。僧侶も下界に落ちかけたが、なんとか穴の縁を掴んでぶら下がった。
空中寺院は、高度を下げていき、やがて、村の池に着水し、沈んでいった。
空の上で老人はため息をついた。
「お前は、すでに天の者。手を放したところで空に浮かび、寺院に帰れたものを。己の命を惜しむ心が、この空中寺院をも沈めたのだ」
(410字)
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