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廃墟のお化け、ハロウィンノベルパーティー2024

#ハロウィンノベルパーティー2024
#廃墟のお化け
#ショートストーリー

10月の番号の日に該当のお化けの話を投入します。



かつて豪華だったホテルは、今やひび割れた壁と崩れかけた屋根で覆われ、誰も近づかない廃墟と化していた。夜になると、そこから不気味な音が聞こえてくると言われ、町の住人たちはこの家に「お化けが住んでいる」と噂していた。誰も真相を確かめに行こうとはしなかったが、噂は日に日に広がり、廃墟の前を通るときには誰もが足を速めていた。

そんなある夜、町で怖いもの知らずとして有名な青年ジミーが、友人たちにけしかけられて廃墟に潜入することになった。「お化けなんているわけがない!」
そう豪語し、ランタンを手にしたジミーは、足音を響かせながら廃墟に足を踏み入れた。

内部はひんやりとして、壁にはカビがびっしりと生えている。床には埃が積もり、ところどころ抜け落ちていた。風が隙間から入り込み、奇妙な音を立てるたびにジミーは肩をすくめたが、引き返すわけにはいかない。友人たちの前で散々威張った手前、お化けを見つけるまで帰れないと自分に言い聞かせていた。

廊下を進むうち、彼は不気味な影が目の前を横切るのを目にした。息を飲んだジミーは、足音を忍ばせてその影を追う。影は、ひときわ大きな部屋へと入っていった。恐る恐るドアを開けると、そこには――

「やぁ、ようこそ、僕の家に」

椅子に座っているのは、お化けだった。透き通るような体に、ぼんやりとした青白い光をまとった幽霊が、のんびりと足を組み、何かを口に運んでいる。
「お化け?」
驚くジミーに、幽霊はあっさりとうなずいた。
「そうだ。だが、怖がるなよ。俺は人間なんか襲わない。ただ、ここで退屈しのぎをしているだけさ」

「退屈しのぎ?」
ジミーは幽霊の手元に目をやった。それは、なんとボードゲームだった。古びた木製の盤の上に駒がいくつも並び、幽霊はその駒を動かしている。
「まさかお前、ずっとこれで遊んでたのか?」

「そうさ」
幽霊はうなずき、駒を一つ動かす。
「だが、これが一人ではつまらなくてな。よかったら一局、付き合ってくれないか?」

ジミーは目を見開いた。
幽霊がゲームをして暇つぶしをしているなんて、まったく予想外だった。
「お前、人間を脅かすとか、そういうことはしないのか?」
そう尋ねると、幽霊は肩をすくめた。
「そんな面倒なことはしないさ。誰も来ないから、こうして遊んでいるだけだ。正直、退屈で退屈で仕方ないんだ」

ジミーは笑いをこらえきれなくなった。
「じゃあ、俺とゲームでもして楽しむか?」
軽い気持ちで提案すると、幽霊の顔がパッと明るくなった。「本当に?お前、ゲームができるのか?それなら話が早い!ずっと誰かとやりたかったんだ!」

ジミーと幽霊は、古びた部屋の中でボードゲームを始めた。しばらくすると、町の仲間たちがジミーを心配して廃墟に入ってきたが、彼らが見たのは、幽霊と楽しそうに笑いながらゲームをしているジミーの姿だった。

「お前、なんだよ、怖がらせるな!」
仲間たちが駆け寄ると、幽霊はにこやかに言った。
「やぁ、君たちもどうだ?三人でできるゲームもあるぞ!」

こうして廃墟の幽霊は、いつしか「お化け」ではなく、町の子供たちに「ゲーム好きの精霊」として親しまれる存在となった。街の人たちは、幾久しくこの街にいてほしいと思った。

ところが、この廃墟に遊びに行った者たちが次々と病気になり寝込んでしまった。みんな顔色が悪くなり、一日中、咳をしていた。大人たちは、呪いだと恐れたのだが、町医者のジェームズが診察したところ、廃墟のカビを吸ったことが原因だと分かった。

これは大変だと、町中の人が総出で、この廃墟の大掃除をした。最後にジェームズが、チェックをして回った。
「これなら大丈夫だろう」
そう言って、ジェームズがうなずくと、小さく掠れるような声が聞こえた。
「なんか、落ち着かない。綺麗になりすぎて、住むところがない」

 その日以来、廃墟のお化けは姿を消した。街の人たちは知らず知らずのうちにお化け退治をしていたのだ。

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