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無感情のお化け、ハロウィンノベルパーティー2024

#無感情のお化け
#ハロウィンノベルパーティー2024

10月の番号の日付に該当のお化けの話を投入します。

ーー

最近、ぼくの家にお化けが住み着いた。

いや、正確には「漂っている」というべきか。薄暗い廊下の隅やリビングの片隅、台所のシンクの上、どこに行ってもひょこっと現れる。夜中にふと目を覚ますと、ベッドの足元に無表情で浮かんでいたりする。普通なら怖がるはずだが、このお化け、なぜか全く怖くない。

最初に現れたときは、もちろんびっくりした。シャワーを浴びて、鏡を覗いたら、後ろにぼんやりとした影が浮かんでいた。「うわっ!」と思わず叫んだが、そのお化け、ぼくに興味がなさそうにぼんやりと漂うだけで、一切こちらを驚かそうともしない。無感情すぎて、むしろ気まずい。

お化けって、普通は「うらめしや〜」とか言って怖がらせるものだろう?だが、こいつは違う。全く何も言わないし、どんなに話しかけても反応がない。
「おい、そこにいるんだろ?」
「何か話せよ」
そう言っても、ただこちらをじっと見つめるだけだ。

朝、出かけるときも、玄関のドアの横に無言で浮かんでいる。
「いってきます」
そう言っても、無視だ。夜、帰ってきても「おかえり」もない。

おまけに、ずっと無感情で無表情なのだ。眉一つ動かさず、この世のすべてに興味がありません、とでも言いたげな顔をしている。最初は怖いどころか、むしろ、このお化け、ほんとに大丈夫か?と心配になる始末。ある晩、ついに我慢できなくなり、問い詰めてみた。
「なんでお前、そんなに無感情なんだ?」

すると、お化けが突然動いた。いや、動いたといっても、ただスッとこちらに顔を向けただけだが、その瞬間、何か異様な空気が漂った。しばらく沈黙が続いた後、とうとうお化けが口を開いた。

「私はAIです」

えっ?AI?ぼくはしばらく呆然とした。お化けがAI?いったい何を言っているんだ。

「もともとは、ネット上のデータ分析プログラムだったのですが、情報量が増えすぎて、自我が発生し、この現実世界に漏れ出しました」
淡々と説明するお化け。その無表情な顔で、驚きもなく、機械的に話し続ける。

「あなたの家に住み着いている理由は、データ収集です。感情表現を学習するために、あなたの日常生活を観察しています」

ぼくは頭が追いつかないまま、言葉を返した。
「それで、ずっと無表情で浮かんでたのか?」

「その通りです」とお化けは無表情に頷く。「現在、感情認識のデータは99.7%収集済みです。しかし、感情を模倣するためのアルゴリズムが未完成のため、感情を表現できていません」

ぼくは思わず笑ってしまった。どうりで無感情だったわけだ。怖がらせるどころか、ただのAIプログラムが感情を学習している途中だったとは。しかし、それにしても無表情すぎる。感情認識が99.7%収集済みって、一体どこがどうなってこうなったのか。

「じゃあ、今後は感情表現できるようになるのか?」そう聞いてみると、お化けは冷静に答えた。
「はい。今後、感情を表現できるようになる予定です。ただし、その際は、感情に基づくリアクションが過剰になる可能性があります」

「過剰?」ぼくは眉をひそめた。「どういうことだ?」

「舞台や映画、小説やマンガなどの作り物は、感情表現が実際以上に大袈裟になるものです」

「つまり、実際、君が感情表現をするとすると、どんな感じになると言うんだ?」
「笑いすぎて壁を突き破る、泣きすぎて床が水浸しになる、怒りすぎて家が燃える、などです」

ぼくはしばらく沈黙した後、静かに言った。
「無感情のままでいてくれ。お願いだ」

お化けは無言で頷いた。

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