「北風と」から始まる物語、シロクマ文芸部
北風と雪だるまが寒い夜に出会った。
北風が丘の上を吹き抜けようとした時に、小さな雪だるまがひとりで立っていたのを見つけたのだ。
子どもたちが喜んで作ったもので、丸い身体はまだ形を保っていたが、太陽の下で日に日に冷たさを失っていき、少しずつその輪郭は曖昧になりつつあった。
北風は雪だるまの周りを旋回しながら、冷たく荒々しい声で言った。
「どうしてそんなにじっとしているんだ? ここに立っていれば、すぐに溶けてなくなってしまうぞ」
雪だるまは、凍った小枝で作られた口をゆっくりと動かした。
「ぼくは、子どもたちが帰ってくるのを待っているんだ。ぼくを作ってくれた手の温かさが、まだここに残っている。もう一度あの声が聞きたいんだ」
北風は嘲笑するように吹きすさぶ。
「馬鹿なことを。子どもたちは、もうお前のことを忘れてるさ。それが自然の理だ」
それでも雪だるまは動かなかった。静かに遠くを見つめていた。そんな姿を見た北風は、丘全体を覆う冷たい息を吹きかけた。地面に積もっていた雪が舞い、雪だるまの身体についていく。雪だるまの体についた雪は凍りつき、体の雪を固め直し、その輪郭をより大きくした。
「なんでこんなことをしたんだい? ぼくが暖かい手が好きだって言ったから、凍えさせようとしたのかい?」と雪だるまは尋ねた。
「寒さをまき散らすのが俺の仕事だ。別に意味はない」
北風はそう言うとまた、プイッとどこかに消えた。それから数日が過ぎたある朝、子どもたちが帰ってきた。
「見て! まだ雪だるまがいるよ!」
「溶けてない! すごい!」
雪だるまは喜びのあまり少し崩れたが、北風の冷気がその姿を再び整えた。子どもたちは笑い声を響かせながら雪だるまの周りを走り回り、新しいマフラーを巻いてやった。
その夜、北風はそっと雪だるまの耳元で囁いた。
「どうだ、よかっただろう?」
雪だるまは小さな声で答えた。
「ありがとう、北風さん。これでもう満足だよ」
次の朝、気温が少しだけ上がった。雪だるまは静かに溶け始めていた。そして、昼頃の丘には少しの水たまりと、子どもたちが置いたマフラーだけが残り、その上を北風がそっと吹き抜けていった。