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丸いお化け、四角いお化け、ハロウィンノベルパーティー2024

お題 丸いお化け
   四角いお化け

10月の各番号の日付に、そのお題の小説を公開するノルマ

追っかけておりますので、ふたつのお題をいっぺんに消化します。



暗い夜の交差点、スピード違反の車が道路標識を薙ぎ倒した。そのとき、不思議なことが起こった。

ひしゃげて転がっていた「侵入禁止」の標識が、ふわっと空中に浮かび上がり、真っ赤な丸いお化けに姿を変えた。

「ひゃっほー! やっと僕も自由だ!」
丸いお化けは大喜びでくるくると宙を舞った。

すると、すぐ隣で倒れていた「一方通行」の標識も立ち上がり、四角いお化けの姿へと変わった。

「ちょっと、丸いお化け! そんなに浮かれてどうするんだ。君は侵入禁止なんだから、ここでしっかり見張っていなきゃいけないだろう?」

「はあ?」丸いお化けはぷかぷかと浮かびながら、目を細めて?四角いお化けを見た。「それは道路標識としての話でしょ? 僕は人間たちに、もっといろいろな侵入禁止を教えるんだ!」

「いろいろな侵入って、例えばなんだよ?」
四角いお化けが怪訝そうに尋ねると、丸いお化けは得意げに丸の中央部のやや上のあたり(胸?)を張った。

「例えば、心の領域に無理やり入り込んで、傷つけようとする奴を止めるんだ!」
丸いお化けはきらきらと輝く目で空想に浸っていた。

「侵入禁止の力を見せつけて、どんなに嫌なやつでも絶対に立ち入らせないようにするんだ! ほら、大事にしてる夢とか、自分だけの趣味の時間とか、そういう大事な領域を守るんだよ!」

「なるほどね、君の侵入禁止って、そういうことか」四角いお化けは腕を組んだつもりなのか、その硬い体をゆっくりとねじった。

「でもな、丸いお化け、君がそんなに侵入禁止ばかり訴えたら、周りの人間を全部立ち入り禁止にしちゃうだろう? 自分の殻にこもって、何も受け入れなくなったら、ただの孤独な独りよがりだ。だから僕が必要なんだよ!」

「は? 何言ってんのさ?」
丸いお化けはぷかぷかと近寄って四角いお化けの角をつついた。

「分かってないな、丸いお化け。僕の一方通行は、勇気を与えて前に進ませるんだ!」

四角いお化けはぎしぎしと体を揺らして、熱弁をふるった。
「周りのことなんか気にせず、余計な寄り道をさせないんだ。君みたいな侵入禁止で、守ってばかりいると、迷って進めなくなるだろう?」

「そ、そんなことないもん!」丸いお化けはふわふわと体を膨らませ、目をぐるぐると回していた。「大事なものを守るために侵入禁止は必要なんだよ。例えば、あの子を好きだって気持ちを、他の誰かに邪魔されたくないときとか!」

「いやいや、だったらむしろ僕の一方通行だろ? 好きなら、迷わずその気持ちを貫かせるんだ。周りの雑音なんて聞かずに、まっすぐに想いを伝えさせる。だって、愛はいつも一方通行なんだから!」
四角いお化けは決め顔?で言い放った。

「いや、それは絶対にダメだよ!」丸いお化けは赤い体を震わせて抗議した。「一方通行で突っ走ると、相手の気持ちを無視しちゃうことになるんだ。君が『行け行け!』って言ったせいで、とんでもないことをしでかすかもしれないよ!」

「とんでもないことって、なんだよ?」

「例えば、突然彼女の前に現れて、いきなり『結婚してくれ!』なんて叫ぶとか!」

「それでいいじゃないか!」四角いお化けは笑いながら言い放った。「本気なら突き進めばいい! 僕はそれを応援するんだ。君みたいな侵入禁止のせいで、ビビって何も言えずに終わるほうが、よっぽど悲しいよ!」

「ち、違うもん! その突っ走る道の先に危険があったらどうするのさ! 相手の気持ちをちゃんと見極めてからじゃなきゃ、侵入禁止にしなきゃ!」
丸いお化けは必死に反論した。

こうして二人は、人間の行動をどうするかを巡って言い争いを続けた。
「守ることが先だ」
「いや、進むことが大事だ」
お互いに譲らず、とうとう夜明け近くまで喧嘩を繰り広げていた。

そのとき、ふと、近くの街灯の影から小さな声が響いた。
「あの、ちょっといいかしら?」

二人が振り向くと、そこには、丸い標識のお化けが、ひょこっと顔を出していた。矢印がぐるぐると回る環状交差点のマークが顔?に浮き出ていた。
「もしかして、私も少し話に加わっていいかしら?」

「えっ、君、いつの間に?」
丸いお化けと四角いお化けは揃って目を丸くした。

「私、ずっと見てたのよ。君たちが人間の進むべき道について喧嘩してるのをね。侵入禁止のお化けさん、心の領域の話からもう一度してもらっていいかしら」

「話を最初からやり直すの?」
二人はぽかんとした表情で見つめた。

環状交差点の丸いお化けのせいで、夜明けまで永遠にぐるぐる、ぐるぐると同じ話を繰り返した。そして、朝を迎えたお化けたちは、太陽に焼かれて消滅した。

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