![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/135349058/rectangle_large_type_2_b1ee6c7b36eab85c2009747a1d4fe29f.png?width=1200)
桜回線、毎週ショートショートnote、410字
「綺麗だね」
翔のカフェの中庭はオープンカフェになっていて、大きな桜の木の下でそんな言葉が交わされる。
老若男女が集い、彼らの会話は桜の木の下で交錯し、桜は人々の間の見えない「回線」として機能し、様々な思いや記憶をつなぐ。
綺麗だねという言葉は桜を経由した回線に乗り相手に伝わる。そして、やがて見つめ合い桜を介さず直接話し始める。
友人同士の笑顔、初恋のぎこちない告白、家族の温かなふれあい。それぞれのストーリーが桜の下で織りなされるある日、かつての恋人、凛がカフェに現れた。
「翔、あの桜の木の下で交わした約束を覚えてる?」
「ああ」
「あの時、翔ったら、桜を見ながら…ううん、桜に向かってプロポーズしたのよ」
「桜を経由して君に伝わっただろ」
「私の心は今も変わってないのよ」
桜の花びらが舞い落ちる中、病が奇跡的に全快した翔と彼女は手を取り合った。
桜の木は、過去と現在、未来をつなぎ、人と人の心をつなぐ回線となって、今日も咲いていた。