放射線透過試験と多面的思考

非破壊検査手法の1つ、放射線透過試験と多面的思考について考えてみます。


1.放射線透過試験とは

自らの言葉で表現すると、「X線やγ線などの放射線が、物体(人体)を透過する特徴を利用して、物体内部(人体内部)の欠陥を検出する」です。いわゆる、健康診断で受ける、単純X線撮影の人体がモノに置き換わったものと考えると良いです。

「一般社団法人 日本非破壊検査協会 放射線透過試験Ⅱ」では以下のように定義されています。

放射線を試験体に照射し、透過した放射線の強さの変化から試験体内部のきずを調べる非破壊検査

一般社団法人 日本非破壊検査協会 放射線透過試験Ⅱ2019 P7

私の表現では「欠陥」という言葉が、定義では「きず」という言葉が出てきました。厳密には、両者は区別されます。

きず:非破壊試験の結果から判断される不完全部または不連続部
欠陥:規格、仕様書などで規定された合否(判定あるいは受け入れ)基準を超え不合格となったきず


非破壊試験「きず」を検出し、非破壊検査「欠陥」を検出する

一般社団法人 日本非破壊検査協会 放射線透過試験Ⅱ2019 P9

放射線も定義によってさまざまですが、ここでは、X線やγ線を放射線とします。

X線やγ線は光(光子線)の一種ですが、日常的に見る「可視光」よりも、エネルギーが高いため、物体内を透過することができます。

透過するとは言っても、すべての放射線が透過するわけではないです。

物体の厚さ(透過厚さ)密度、放射線のもつエネルギーによって、放射線の透過能力は変化します。

  • 物体の厚さ(透過厚さ)が厚く、密度が高くなる ⇒ 透過しにくくなる

  • エネルギーが高くなる ⇒ 透過しやすくなる

放射線の透過の程度を、色の濃淡で表現したものが、放射線透過写真(フィルム)です。通常はX線を使うことが多いため、X線フィルムと呼ばれます。

放射線の透過が多い(X線フィルムに届く放射線の量が多い
⇒ 透過厚さ、密度 ⇒ 黒くなる
放射線が透過が少ない(X線フィルムに届く放射線の量が少ない
⇒ 透過厚さ、密度 ⇒ 白くなる

X線による、透過写真のイメージ図は以下になります。

X線の透過方向に対して微小断面を考えます。これらの微小断面の情報が、1つの面、つまり、X線フィルムに集約(積分)されて、投影されるイメージです。

例えば、物体内部に空洞がある場合、または、周囲と比べて密度が低い、薄い場合は、その部分は濃い色として写ります。

逆に、物体内部に周囲と比べて密度の高い異物がある場合、周囲と比べて厚い場合は、その部分は薄い色として写ります。

このように、現物⇒X線フィルムでは、3次元的情報⇒2次元的情報となり、X線フィルム⇒現物では、2次元的情報⇒3次元的情報となるため、頭の中で情報の変換が必要になります。

この3次元⇔2次元の行ったり来たりが、多面的思考と関連します。

図1 X線フィルムでの写り方のイメージ

2.放射線透過試験と多面的思考

1方向のみの撮影で判断すると、誤った判断になりかねないです。

検査対象物の中に、面状欠陥があるとします。

面状・線状欠陥は、薄く、鋭い形状のため、応力集中が発生しやすく、そこからき裂が進展する恐れがあり、非常に危険な欠陥です。

特に溶接部では、溶接ワレはもってのほか、融合不良、溶け込み不良などが挙げられます。逆に、ブローホール、ボイドなどは、球状のため、応力集中は発生しにくく、要求によっては許容される場合もあります。

面状・線状欠陥の特徴として、X線の透過方向に対して長さを持つ欠陥であれば検出が容易になります。(図2の左)X線透過方向に対して厚さを持つため、X線フィルム上では、白く、はっきりとした像が写ります。

しかし、透過方向に対して直行する方向に長さを持つ場合、検出が難しくなります。(図2の右)図2の真ん中もそうですが、右にいくにつれて、X線の透過厚さが小さくなります。すると、像は黒くなり、背景とほぼ区別がつかなくなります。つまり、欠陥を見逃す可能性が高くなります。

このように、3次元的に存在する欠陥の形、向きにより、X線フィルムでの写り方が大きく異なります。

図2 面状欠陥の向き - X線透過厚さ - X線フィルムでの写り方の関係

対象とする欠陥が分かっている場合は、欠陥がどの位置にあり、表面からどの程度の深さに、どんな形で存在するのか、調べることが可能です。

まずは、製造図面、材質、製造工程を確認し、どこに、どんな欠陥ができやすいのか、把握する必要があります。さらに、製造工程の変化点(作業者、設備のパラメータ、素材の調達先、素材のロット、etc)を確認することで、欠陥に対する情報が深まります。

図3のように、欠陥に対して2方向から撮影すると、表面からの深さがわかります。(これを、ステレオ撮影と呼びます。)

また、撮影方向を増やし、3方向から撮影すると、形状もわかります。3方向から撮影することで、欠陥の濃度、形状が変わり、欠陥形状をより立体的に把握することができます。

図3 ステレオ撮影のイメージ

いずれの方向から見ても、同じ形状かつ濃度であれば、ほぼ球形だと予想できます。

しかし、形状や濃度が変わる場合は、線状や面状の欠陥である可能性が高くなります。さらに確度を上げたい場合は、4方向目、5方向目と、見る方向を増やしていきます。

単純な撮影を組み合わせ、見る方向を増やすことで、まるで3次元CTのような撮影が可能となります。

得られた欠陥情報は、製造工程や設計にフィードバックします。これにより、机上では気づけなかった、製造工程や設計の問題点が明らかになり、改善につなげられます。

このように、モノづくり全体の情報を総合的かつ多面的に見ることで、非破壊検査、特に、放射線透過試験は成立すると言えます。

以上、放射線透過試験と多面的思考についてでした。

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