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知らない本を紹介しよう!第1回おたま研ビブリオバトル vol1
おたまじゃくし研究所では、ハーモニーのあるコミュニケーションを実現するために、人間同士の話し合いデータを研究しています! note では、話し合いの研究成果や分析方法を公開しています。なお、話し合いの計測には、Zoom 録音データを分析する Hylable Adapter for Zoom を使いました。
※ 普段、研究論文ばかり書いているので気を抜くと文章が堅くなりますが、頑張って柔らかくしています!
スキやコメントなどお待ちしています
まずは自己紹介
読者の皆さま初めまして!
4月からハイラブル株式会社でアルバイトをしている大学院修士1年の橋本です!普段は人工知能を使った対話システムの開発を行っていますが、今回はおたまじゃくし研究所での会話分析を行います。
大学時代に部活のブログを月1回くらいで書いていたので、文章を書くことは少し慣れています!しかし、最近は論文ばっかりを読んだり書いたりなので、文章が堅くなりすぎないように気を付けます!
ビブリオバトルをやってみよう
おたまじゃくし研究所では、コミュニケーションの実験を行うなかで、会話分析を使ったゲームを作ったりもしています。たとえば、前回はおたま研で開発した、他の人が知らない単語を当てるゲーム、 ポカンゲーム を行いました。
今回は、あの有名な、お互いに本を紹介する ビブリオバトル を一部ルールを変更し遊んでみました。
ビブリオバトルのルールの確認
[1] 発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる.
[2] 順番に一人5分間で本を紹介する.
[3] それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2~3分行う.
[4] 全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員一票で行い,最多票を集めたものを『チャンプ本』とする.
しかし、せっかくのおたま研でのビブリオバトルです。
特別ルールを加えましょう。
おたま研特別ルール
「他の人が読んだことがない本を紹介する」
おそらく参加者6人を合わせると年間数百冊読んでいるかもしれません、、、
そして文理様々なバックグラウンドを持つこの6人では非常に厳しいルールでしょう。
さらに被りが無いように事前に紹介する本を確認しあうという徹底ぶり。
ルールをまとめるとこうなります。
第1回 おたま研ビブリオバトル
基本ルール
公式ルールに従う。みんなが読みたいと投票した本を紹介した人が勝利。 https://www.bibliobattle.jp/rules
追加ルール
ただし、紹介する本は以下の条件を満たさなければならない
条件1 物理的に1冊の本の形になっている
条件2 おたま研で自分以外は読んだことがない
なお、条件2を確認するために、事前にタイトルを共有して確認してよい。
このとき、他のメンバーは事前に調べるネタバレはしてはならない。
本とプレゼンテーションの紹介
今回は前半の3名(長尾研究員、角研究員、井上研究員)の紹介をしていきます。少々長い記事になってしまいましたが、最後までお付き合いください!
長尾研究員のターン
「東京の生活史」
著,監修:岸 政彦
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①:約500ページ ②:約1000ページ ③:約1300ページ
正解は③で1216ページ!!!
(著者後書き曰く、「こんなに分厚い本を全て通して読む人なんていないと思う」)
「150人が語り、150人が聞いた、東京の人生」
いまを生きるひとびとの膨大な語りを一冊に収録した、 かつてないスケールで編まれたインタビュー集。
長尾研究員「1216ページですよ。そんな本、皆さん持ってますか?」
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やはり辞書が多いですね
長尾研究員
「では後書きをご紹介します。
“この本に付け足すことは何もない。・・・
色んな階層と職業とジェンダー・・・
一生懸暮らしている人の人生を聞きたい。
・・・・・。”
こうやっていろんなインタビュアーやインタビュイーのことが書いてあるんですね。あ、あと9秒しかない」
なんと持ち時間のほぼすべてを後書きの朗読で使い果たしてしまいました。
まさかのプレゼンテーションに一同、あ然です。
長尾研究員「言いたかったこと全然言えなかった、、、(´;ω;`)」
井上研究員「全然読みたいと思わないよ(笑)」
質問タイムに入り、水本所長から助け船が出ます。
水本所長「結局、長尾研究員が一番言いたかったことはなんですか?」
長尾研究員
「この本の価値は今すぐには分からない。
でも、この本には2021年に東京の市井の人々150人が市井の人々150人にした300通りのインタビューが詰まっている。
例えば100年後の東京の人々がコロナ渦で右往左往していた東京の生活を知ろうとしたときにこの本の価値が発揮される。もしこの本の江戸時代バージョンや明治時代バージョンがあれば、当時の生活に思いをふけることができたはず。」
最初はページ数とまさかのプレゼンに圧巻されていた他の研究員もこの本の魅力を聞くうちに興味が出てきたようです。
その流れを感じ取った長尾研究員はさらにこの本の価値を説明します。
長尾研究員「しかもこの本の重さを利用してクシャクシャになっちゃった領収書を綺麗にできます!」
一同「それはいいね(笑)」
井上研究員「タクシーのやつとか丸まっちゃうしね(笑)」
長尾研究員はまだまだこの本の価値を語ります。
「しかも、棚にこの本を置いておけば、将来娘たちに「お父さんはこんな分厚い本を読んでいたのか」と尊敬されそう。」
一同笑い
ここでタイムリミットが来てしまいました。
興味深い本かつ面白い(?)プレゼンテーションとなりましたが果たして票は得られるのでしょうか?
最後のコメント
長尾研究員「M-1と同じでトップバッターは難しいなあ」
角研究員
「シオリエクスペリエンス 10巻」
作画:長田 悠幸 原作:町田 一八
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まさかの本ではなく、漫画(ルール上はOK)。
しかも1巻ではなく、10巻というチョイスをした角研究員。
三菱学園高校で働く”ジミ”な英語教師・本田紫織は、実家の借金返済のため仕事に明け暮れる日々を送っていた。 ところが27歳の誕生日を迎えた日、突然有名ギタリスト ジミ・ヘンドリクス の亡霊に取り憑かれ「27歳が終わる日までに音楽で伝説を残さなければ死ぬ」と言い渡される。
角研究員曰く、「10巻はシオリエクスペリエンスの“大トロ”ですよ」
同校の名門吹奏楽部顧問の青島の音楽に光岡音々(みつおか ねおん)は惹かれ音楽を始め、吹奏楽部の部長にまでなった。しかし、本田紫織が所属する軽音楽部の音楽を聴いて以来本来自分が好きであった自由な音楽とのギャップに苦しむようになり、ジストニア寸前の状態まで追い込まれてしまう。
ジストニア:音楽家によくみられる症状で、筋肉が痙攣し演奏ができなくなってしまう病気。
角研究員はなぜこの本が自分に響いたかを語ります。
「光岡音々の自分のしているすべてが決まった音楽と自分が本当にやりたい自由な音楽の中で感情が揺れ動く様と、そのしがらみから解放されたとき読者としての爽快感がハンパない。
そういった答えの決まった世界に縛られる様子と、そこから解放されることの喜びに自分の経歴(*)を重ね合わせてしまった。」
(*)角研究員は以前は公務員でしたが退職し起業。現在は公務員の経験を活かし新規事業開発支援などで活躍しています。株式会社フィラメント
長尾研究員からの質問
「どんなシチュエーションでこの漫画を読むと味わいが増しますか?」
角研究員「1週間頑張って仕事が全部終わったあとに翌朝から1巻から17巻まで全部読み込んで欲しい。」
ここでタイムリミットです。
さらにここから持ち時間がなくなったということで(?)、角研究員は堰を切ったようにこの漫画を熱く語っていました。
が、それはこの漫画のネタバレも含んでいるので、ぜひ読者さんの目でご確認ください!
井上研究員
「人をつくる言葉」
著:大村 智(2015年ノーベル生理学・医学賞 受賞)
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井上研究員は著者の大村先生と共同研究の経験があり、その時に大村先生のことを人間的にも学者としても素晴らしい人だと感じたそう。そんな大村先生の言葉が記されていると思いこの本に興味を持った井上研究員。
しかし、実際は大村先生の言葉が載った本ではなく、大村先生が影響を受けた言葉をまとめた本だと判明。
井上研究員
「それでも、あんな素晴らしい人を作った言葉ならぜひ知りたいと思って購入しました。そこで見つけた1つの言葉にとても感銘を受けたので、皆さんに紹介します。
「朝は希望に起き、昼は努力に生き、夜は感謝に眠る」
この言葉を見た瞬間に自分はどんな希望を抱いて今朝起きただろうか?今日は誰に感謝して眠るだろうか?そう思いました。」
一同 井上研究員の話術に引き込まれていきます
さらに井上研究員は続けます
「120ページしかない本なのに、全然読み終わらない。
1ページめくる度に言葉を噛みしめ味わってしまう。
そんな言葉がこの本にはたくさん載っている。こういう言葉をいつか自分自身も残したいと思った。その結果、自分を作っている言葉を探すようになった。
そして、あの言葉が大村先生を作っているかと思うと感無量です。」
ちょうどここで持ち時間の終了を知らせるベルが鳴りました。
完璧なプレゼンにみなさん思わず拍手です。
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仲山研究員「ぜひ井上さんが集めた言葉の載った本を読みたい」
長尾研究員「でもこの本ってノーベル賞受賞者が書いていることにも大きな価値があるよね」
長尾研究員の鋭い指摘に一同笑い
井上研究員
「この本を読んでから一文一文にさらに感情移入するようになった。
この前、英語の教科書の “My name is Nancy.” を見たときに「これは深いぞ」って思っちゃった。
どこの誰ではなく、この生き様で、今ここを生きている、そんな自分こそが自分であるっていう意味なんだって。」
仲山研究員「じゃあ井上研究員が本を出すときは「My name is Nancy.」が入っているんだね(笑)」
角研究員「そんな言葉が乗っている本なんて誰も買わないよ(笑)」
井上研究員のターンは12分半もかかり、明らかに熱気がありました!
まとめ
今回は本紹介ゲーム ビブリオバトル で遊んでみました。
1200ページもある本から、たった120ページしかない本、はたまた漫画まで幅広い本が紹介されましたね。
特別ルールによって興味深い本がこれからも出てくるので、ぜひ次回の記事もお待ちください!
次々回の記事では、結果を発話量や発話の相関の面から分析したいと思います。お楽しみに!
追記:vol2の記事はこちらです!
執筆:ハイラブル株式会社 アルバイト 橋本慧海