狭い、記憶の外のお店
「究極に美味いカルボナーラ作るからさ、美味しかったらエッチしない?」
と、おっさん。
よく半分明晰夢を見る。半分というのも、「これは夢だな」と理解はできているけど、自由に空を飛んだり他の人を意のままに操ったりはできない。今回はまた変なところから始まったなと思いつつ、周りを見る。狭いカウンターしかない店だ。全体的に木の造りで、街にあるバルをぎゅっと小さくしたような感じ。
外に出てみると、少し山の方にある店のようだ。視線の先に海が見える。尾道の記憶でできた山と海が近い街なのだろうか。線路と電車は海の上を走っている。
海辺に目を向けると、暗い中に並んでいる明かりが見える。海沿いに店が並んでいるようだ。関西に住んでいた頃、よく言っていた河原町三条は川辺に店が並んでいて風流だったのを思い出す。思い出す、というよりも、その思い出が目の前で形を変えて現れている。
振り返ると、店の外観が見える。店、というより小屋に近い。バンガローをもっと簡単にしたような造りになっている。店を眺めながら、おっさんの言葉を思い出す。これは類似した記憶はないぞ。断じて。そう信じたい。
入るか、このまま眼下に見える店の列に入っていくか考えたが、どうせ不味いと言えばいいのだから、ものは試しにまた店の中に足を踏み入れてみた。
入り直してみると、席は自分が座っていた窓際の席1つだけになっていた。人を喰う家なのか、それともおっさんの本気が為す妙技なのか。
おっさんは既にカルボナーラを作っていた。少し火を通したトロトロのたまごと麺が並んでいた。ここから混ぜるのかと見ていると、
「素手の方が美味しいから」
と、目の前で熱々の麺と卵を素手で混ぜていた。最後にホイップクリームが乗っかり、カルボナーラが出された。
「……不味い」
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