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河原の砂地に生息する少々珍しい虫
虫関係でネタ切れなので、小ネタ。河原の砂地に生息する、少々珍しい虫を紹介する。
シワムネマルドロムシ
1つ目は、シワムネマルドロムシGeorissus kurosawai. 幼虫が水生の半水生甲虫である。下写真のような形態で、体長は1.5 mmほどしかない。
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日中、河原の水際に近い砂地の地表を成虫が歩行しているのが見つかると言われているが、実際にそれを見たことがある人は、虫屋でもほとんどいないだろう。
本種を実際に見てみたくて、2023年9月上旬、神奈川県内の某河川の中流域の河原を調査した。
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砂礫の河原にしゃがみ込んで、ひたすら地表を舐めるように見て回ったがまったく見つかる気配がなかったため、作戦変更。石を片っ端から起こして、下に隠れている虫を探索した。暑い中探し続けること1時間半、ようやく1頭だけ見つかった。
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上写真の中央にいるが、分かるだろうか。この虫は背面にツヤもなく、ほとんど動かないため、砂粒と区別するのが非常に難しい。
その後、同所で追加調査を行い、1回だけ歩行中の成虫を下の子が発見したのを一瞬見た(ような気がする)が、残念ながらすぐに見逃してしまった。活動中の本種を見るには、相当な根気が必要そうである。本種は、単に採るのが目的ならば、夜間にライトトラップを用いる方が遥かに採りやすいらしい。神奈川県内の山間部の某所では、ライトトラップに非常に多くの個体が誘引されたという噂も聞いたので、生息地における個体密度は高いようである。ライトトラップに掛かるのだから、夜に地表を見て回れば簡単に見つかるのでは?と思いつき、上記の場所をわざわざ夜に見にいったこともあるが、残念ながら発見ならず。本種との格闘はまだまだ続く。
ヒラタホソアリモドキ
2番目はヒラタホソアリモドキAnthicus perileptoides. アリモドキ科の体長2 mm弱ほどの微小種である。
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2022年6月、相模川の河原の砂地でしゃがみ込んで、地表を動き回る虫たちを観察していたところ、黒っぽい普通種のアリモドキやチビミズギワコメツキ類に混じって、見慣れない黄褐色のアリモドキが多数いるのをみつけた。
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自宅近所の厚木市内の相模川河川敷でも多数見られたため、別に珍しい種とは思わなかったが、調べると、何と本種は、神奈川県内ではそれまで記録が稀少だったことが判明。半世紀前の平塚市からの記録と、2019年の台風19号による大増水後の相模川河口における記録の2つしかなかったのである。
その後追加調査を行ったところ、相模川の支流の中津川や道志川の河原でも発見したので、相模川水系では広く分布しているようだが、県西部の酒匂川水系の河原では今のところ見たことがない。確かに、どこでも普通に見られるわけではないようである。近隣の県でも記録はほとんどなく、なぜ相模川だけあれほど多いのか、いろいろ謎。
ツノボソチビイッカク
3番目は、ツノボソチビイッカクMecynotarsus niponicus. 前種と同じアリモドキ科の微小甲虫(体長2.5 mmほど)だが、形態は非常に特徴的である。下写真のように、頭部に立派なツノがある(雌雄いずれも)。
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上述のシワムネマルドロムシの探索時に、同所で見つかった。砂礫の地表を、非常に多くの個体が活発に動き回っていた。ところが、同所を約1ヶ月後に再調査したときは、パッタリといなくなっていた。アリモドキ科の虫は、活動しないときは河原の石の下に隠れていることが多いので、石も起こしてみたが、本当に見つからなかった。あれほどたくさんいたのに、どこに行ったのか?
アリモドキ科の中でも、このツノを持つイッカク類は、生態がやや特異のようである。
橋本晃生, 2022. 砂地環境に棲むイッカク類の形態と行動 (甲虫目:アリモドキ科). 昆虫と自然, 57(2): 33-35.
上記文献によると、イッカク類は、このツノを上手に使って砂に穴を掘って隠れることできるらしい。普通のアリモドキ類ではできなそうな芸当である。また、カンタリジントラップに誘引されたり、長翅型と短翅型の割合が季節によって変化したりするらしい。上記のツノボソチビイッカクが突然消失したのも、どこか他の場所に移動したというよりも、実は、石の下ではなく、何もない砂地に潜っていたために見つからなかっただけかもしれない。この辺の生態について調べると面白いかも。
コニワハンミョウ
4番目は、コニワハンミョウCicindela transbaicalica. 河川敷や海岸の砂地に生息する小型のハンミョウである。2023年9月、神奈川県内某河川の河原の砂地に、本種がたくさんいる場所を発見した。
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ナミハンミョウと比べると小型で地味だが、よく見るとなかなか美麗である。本種が見られたのは、広い河川敷で砂が溜まっているごく狭い範囲に限られた。砂が溜まっている河原なんぞ、近所の相模川でもいくらでもあるが、相模川では本種を見たことがない。現在ハンミョウ類は減少しており、本種もこのように断片化した生息地が点在しているのだろう。
ハンミョウ類は、素手で捕まえるのはなかなか難しい。この発見場所でも、発見時は網を持っていなかったので、捕まえるのに非常に苦労した。長男が6歳のとき、千葉にキャンプに行った折に、キャンプ場近くの河原でナミハンミョウを見つけた。長男はしゃがんで背後から忍び寄り、見事に素手で捕まえていた(捕獲後大顎で噛まれていたが)。それを思い出し、身を低くして接近してみたが、どうしても手が届く範囲から逃げられてしまう。最後は、接近後虫除けスプレーを噴射して、怯んだ個体を強引に捕まえた。
クロコウスバカゲロウ
5番目は、クロコウスバカゲロウMyrmeleon bore. ウスバカゲロウ類は、幼虫がいわゆるアリジゴクの虫である。人里でもよく見られるウスバカゲロウBeliga micansは、軒下などの雨の当たらないところにすり鉢状の巣を作るが、本種は、河原や海岸の開けた砂地に巣を作るらしい。
2022年9月、上述のコニワハンミョウの生息地に、たくさんのすり鉢型の巣が見つかった。幼虫を掘り出してまでは確認していないが、生息環境を考えると、明らかに本種である。アリジゴクは雨の当たらない所に営巣するという先入観があると、ちょっと驚く光景である。
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本種で気になるのは、幼虫の営巣地が、河川の増水時に容易に水没してしまうような場所で見つかることである。河川敷に生息しているということは、たまにある増水も、当然それがある前提の生態になっているのだろうが、水没時はどうやってやり過ごしているのだろうか?水が引いた後、何事もなかったかのように、同じ場所に巣ができていたりするのだろうか?幸い、自宅近所の相模川に生息地があるので、そのうち調査してみることにする。
※シワムネマルドロムシとヒラタホソアリモドキについては、以下の報文を参照のこと。
齋藤孝明, 2022. 相模川でヒラタホソアリモドキを採集. 神奈川虫報, (208): 109.
齋藤孝明, 2023. 道志川におけるシワムネマルドロムシの石起こしによる採集例. 神奈川虫報, (211): 40--41.