#146 CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の短縮化は良いことか?
#145 CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)について説明しました。
最近はこの指標を取り上げて「短くしましょう」「アップルはマイナス」という論説が見受けられます。
この指標を使って、管理して無駄を無くすことは大事なこと。
ただし、元は運転資本のことだから無理に小さくすることまで必要ない。そのことを書きます。
2019年3月15日付レポートの再掲です。
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[キャッシュ・コンバージョン・サイクルの短縮化]
企業が日々、事業活動を営んでいくために必要な資金を運転資本(ワーキング・キャピタル)という。
取引上、現金回収までの時間的なズレが生じるためこれを埋めるため手元資金や短期借入等で賄う必要がある。営業サイクルの話ではあるがB/Sの数値を使って、
運転資本=売上債権+棚卸資産-支払債務
の式で財務流動性をみる。
売上や在庫の増加などで大きくなるが、企業が成長するにつれ増加するものだ。多すぎると資金効率性が悪くなるが、少ないと資金ショートしてしまう。
各項を回転日数化し(売上高、売上原価で除して365を掛け)た値をCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)という。現金化までの平均日数を意味し、小さいほど良いとされる。
売上債権回転日数は手付金など前受金があれば短くなり、信用取引で長くなる。棚卸資産回転日数は、不動産・建築業の最大のリスクを示すので常にチェックする必要がある。支払債務回転日数は仕入れの取引条件で決まってくる。結局、回収を早め、無駄な在庫は持たず、不要な借入はしない事だ。CCCの長期化は、借入が増え資本利益率は低下するため、先進的企業は短縮化を進めている。ファブレスのアップルや受注生産のデルは大きなマイナス値となっており、現金を再投資に回している。
CCCは、業種ごとに業務プロセスや商慣行が異なるため単純な比較はできない。業種別では水産養殖業が最長で、アパレル業、不動産業も50日を超える。これは棚卸資産回転日数が長いからだ。一方、飲食業、宿泊業、美容業など売上債権の小さい「現金商売」は、マイナスの数値となる。決済手段の選択は、こうした時間効果をみる必要がある。確かに定期券・回数券、チャージやプリペイド活用は有利に働く。
ただし、前受金システムはコストがかかる。また、クレジット・カードの入金ラグは最大45日くらいあるので売上認識の基準を変えると長くなる。だからと言ってカード利用不可にすれば売上は落ちてしまうだろう。
支払債務の無理な短縮化は取引先とトラブルになりかねないし、支払条件をあえて緩め他の条件で優位に立ち事業拡大できた例もある。棚卸資産も圧縮一辺倒では仕事にならない現実もあり、変動の激しいオポチュニティ型のビジネスでは緩急こそが腕の見せ所となる。
業種内のバラツキは小さい。要するにCCCはチェックすべき指標ではあるが、扱う商品・サービスである程度決まってしまい、途中で大きく変えることは難しい。元を辿れば運転資本の変形式に過ぎないのだから当然だ。アップルやデルはCCCを最初から意識的に考え、商慣行や既存ビジネスに挑むビジネス・モデルを構築した点が異なるのだ。
以 上
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