#309 リケジョ問題の本質は何か?(1)他の職種と比較する
理系に進む女性が少ない問題。
「#167 リケジョも世界最下位」(2021.10)で書いたとおり、OECDで日本は36カ国で全ての項目で最下位
https://note.com/hydeji/n/ne8de4fe7d711?magazine_key=m8247765a68ad
その後、東大カブリの横山広美(2022.11)「なぜ理系に女性が少ないのか」(幻冬舎新書)がでました。まとめると、
(1)「数学など」理系のテストで男と女の能力差はない。むしろ女の方が成績が良い
(2)親のステレオタイプ。子供のときの刷り込みの影響があるのではないか(物理は男っぽいとか)
(3)無意識のバイアス
(4)ジェンダーイメージ。数学・物理のイメージ。
(5)就職、結婚の足かせ
(6)ジェンダー不平等。おじさん社会。
(7)情報不足
(8)結果として女性先輩のロールモデルがない。環境が男向きに設定。だから進路に入らない。だから学科に入らない
(9)最大の問題は、女性の能力が発揮されておらず、大学や企業だけでなく国や社会としても損失が大きい
など。
この本はカブリに極端に少ない「物理・数学」の女性問題からスタートしているので、理系といっても「生物・薬学等」のリケジョは目標外のようです。(ところどころ混じっているが)
3月6日(月)のオンラインセミナーで横山先生に質問する機会がありました。そのときしゃべり足りなかったので書きます。
この問題を考える上で気を付けたいのは、ゴール設定が曖昧で、「男女を全く区別せず同等に」「全く同じ土俵で一緒に競うように」するのか、それとも男女棲み分け、比較優位性を容認するのか。どういう基準・目標として議論するのか?という疑問があります。
つまり、あらゆる学科や職業で50%:50%を目指すべきなのか?それが自然なのか?無理がないのか?です。つまり、OECD平均の30数%までリケジョが増えても、これを50%近くまで伸ばすのは可能であるか?良い事なのか?という点でしょう。特に日本で10数%しかいない工学や建築はさらにキツイような気がする。
いやいや、女性の能力は高く、これまで虐げられてきたのだし、どうせ達成に時間がかかるんだから目標60%くらいにしておけば、という意見もあるかもしれない。
人によってかなり違ったところを見ている気がします。この点は後で述べますが、とりあえず50%を目標とすることにします。
ちょっと回り道ですが、学部学科の先にある他の職業の男女比を確認してみたい。就職を考えないほど物理数学が好きな人は放っておいても行くからね。
男女の体力や体格の差からすればスポーツで男女で分けられているのはわかる。俊敏性や持続性も違うのかもしれない。
私がまず思いついたのは、体力に関係ない「囲碁・将棋」はなぜ分かれていているのか?そして男女でかなり力量の差があるのはなぜなのか?
まあこれは、競技人口の差が大きい。子どもの頃から始めないと勝てないけど(2)(3)のバイアスによって子どもの時分に始める機会が圧倒的に少ない。女の子が始めたとしても大きくなる途中でもっと面白くて興味のあるものに移ってしまうのだろう(この移りは重要)。
それでは(2)(3)の親や子供期のバイアスがないもので比較しよう。昔なかった分野を見ればいい。WEB3.0の世界は新しい。技術的な話も出るが、活用方法をあ~でもない、こうでもないとDiscord内やカンファレンスでディスカッションする。クリプトは投資であるし、NFTで儲かった人はいる。でも多くはお金は儲からないかもしれない。今のところ未来への好奇心だけの世界である。この世界に女性は皆無である。オフ会やカンファレンスで見たことはない。ごく一部NFTの女性アーチストが持ち上げられているだけだ。おたくの世界と思われているのか。テクノロジーが苦手なのか、すぐお金が稼げないといやなのか。育児で忙しくて時間がないのか。他の趣味に負けているのか。いずれにせよ「女性って好奇心無いの?」「今の現実だけで生きている?」と思わざるを得ないのである。⇒この現実主義は後で
次に「料理人」はどうだろう。女性は43%である。料理は女性も興味あるし、好きである。実際、家庭でかなり作っているではないか。昔は生理的にプロの厨房に立つことは忌避されていたこともあるけど、むしろ長時間労働と低賃金の方が足かせになっている。そうした労働環境と女性の全体就業率から見れば合格点と言ってもいいかもしれない。国勢調査を見ると「料理人」は中高年になると増える職業の代表である。だから女性のM字カーブの問題は少ない。もう少し(5)の労働環境を良くすればもう少し50%に近づくかもしれない。
次は「医師」である。少し前に大学受験で女性を差別していた問題があった。その後の数値を見れば50%である。医師国家試験は実力勝負である。多少、女医さんが休んでいても「あなたの職業は?」と聞かれれば「医師です」となるから国勢調査では50%となるでしょう。よって医師は50%の数値が出るでしょう(「事務員」はそう答えない)。
しかし、診療科目を見ると女医は「都会の皮膚科」ばかりになってしまう。選択は自由なわけだけど、脳外科、心臓外科、麻酔科、救急、離島へき地はもちろん産科までも希望する女性は少ない(もちろん皮膚科も供給過多になるので他を選ぶ人は出てくる)。この問題は医学部付属病院でも、地域医療などでも大問題となろう。医学部差別でおじいさんをバッシングするのは簡単だけども、こういう背景があるのではないかと心配してしまう。それも労働環境(長時間、緊急招集)、体力、訴訟リスク、面倒なチーム運営などが元々の原因ではなかろうか。
次は「美容師」である。「理容師」は男が多いが、「美容師」は女性が多い職業である。まず、美容学校の入学者は1:3で女性が多い。もちろん卒業や国家試験も同様である。職業統計上も1:4で女性が圧倒的に多い。実は30歳代~40歳代の女性顧客は「できれば同年代の女性美容師にやってもらいたい」というニーズは強い。ところがその年代の働き盛りの女性美容師を見かけないのだ。だから頭を洗ってくれる見習い(20歳代前半)と子育てが終わった40後半以降の美容師が郊外や地方で見かけるのがほとんど。(推測に過ぎないが)こうした出産育児の意識の強い女性ほど美容師の資格を取るのではないだろうか?セレクション・バイアス、あるいは逆選択が起きている。だから女性M字曲線が如実に出る職業となるのである。
つまり、学校で女性が多くても安心はできないのである。よって物理学科、数学科への入学者をアファーマティブにあるいは無理やり増やしても、それは表面上の話であって根本的な解決にはならない気がする。
そうはいっても、「料理人」と「美容師」はなんとか合格点に近づく職業といえよう。もし、働き方が男中心であったとしても、自分でお店やサロンを開けばいいからだ。ニーズも確かにある。ところが、都心、一流といった職人は女性がいない。たとえばミシュランで星を得るお店とか、青山・原宿辺りのサロンのカリスマ美容師は男である。これは何故なんだろうか?修行時代の大事な時期を出産・育児で失ってしまったのであろうか?それとも女性特有の別の何かがあるのだろうか・・・この点はリーダー・責任論で述べる
さてIT系の技術者はどうだろうか?能力的には問題はない。幼少期の体験も同等である。日本の場合、ITは学校で学ぶものではなくOJTである。給与水準も男女差は無い。リモートなど在宅でも可能であるからある程度子どもが大きくなれば続けられる。かつては長時間労働が問題視されていたが、今はそれほど大変ではなくなった。
ところが、コーホートグラフをつくると、女性30歳で崖のように急降下して戻って来ない。M字グラフにもならないのだ。一つには技術進歩が早すぎてキャッチアップできない、学び直しが大変、なのだろう。さらに「システム仕事がたいして好きではない」「他の仕事をやりたい」「収入が少なくなっても育児の方が楽しい」「扶養130万円まででいいや」というのが本音ではないか。一番大きいのは人をおしゃべりが無いことだと感じている。こんな仕事は好きではないのだ。こうなると問題は、能力、スキル、出産・育児、体力、労働環境、収入といったことでは無いことになる。(これも責任論につながる)
では理系女子の進路の定番「薬剤師」はどうだろうか。65%~70%が女性である。伝統的に女性に人気があるのでロールモデルはたくさんある。地方でも資格を活かして500万円は行ける。看護師などの医療関係者に比べると夜勤もなく勤務時間も選べる。何よりも育児後の復帰、夫の転勤で転職もしやすい。女性経営者、管理職も女性の数は多い。ただし、薬局チェーンの主要なポストについているのは男が多い。ハードルは薬学部は6年で学費も高い。偏差値も高い。国家試験がたいへんではある。
同様に臨床検査技師や放射線技師は女性が優遇されている現状もある。これは生物、化学といった他の女性が多いフワッとした分野に比べると優位性がある。
しかし、一方の問題は「仕事が面白くない」という点である。自分の創意工夫、好奇心、対人折衝の面白み、対人サービスのやりがい、といったものは皆無なのである。
そう考えると「教員」というのは恵まれている。地方公務員は育休にやさしい。最後の1年だけ校長にしてくれる。年金はたっぷり。田舎では公務員が一番お金持ち。たとえ実家に田畑があっても耕しながら元気に生きていける。地域活動もできる。子どもを育成する楽しみもある。
一方、最近は過酷な労働、モンスターピアレントが問題になっている。部活もしんどく休みがない。成り手が無くてかなりレベルの低い人が教員になっているのも現実である。
最後の手段は難関資格を得ることだ。「司法試験」「司法書士」など法律系が中心である。理数系なら「税理士」「公認会計士」「不動産鑑定士」「アクチャリー」など数字を扱う資格、「弁理士」などリケジョ向きもある。多くは独立も可能である。資格を取るまで大変であり、20歳代の華やかな時期を孤独に勉強することに耐える覚悟が必要となる。どれも法律が嫌いならアウトである。
「(その2)女性の職業選択の軸」に続くhttps://note.com/hydeji/n/ned080690a52a