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#5 科学史の使い方

2020/7/15

帰納法と演繹法

科学的な推論には大きく演繹法と帰納法がある。ギリシア科学の論理学とアラビア科学の実験精神が12世紀ルネサンスに結びついた結果、近代科学が成立した。

演繹法は、普遍的な命題から個別命題を論理的に導く方法である。前提が正しければ結論は必ず正しい。しかし新しい知識を得ることはできない。帰納法は個別命題から普遍的命題を導き出す論証である。こちらは知識を拡張することはできるが、結論は必然でなく蓋然性(確率的)に留まる。

この合理性と経験的方法のそれぞれの短所を補うような結合として「仮説演繹法」が確立された。これはまず未知の現象を説明する仮説を立て、そこから観察可能な帰結を導き出し、それをデータで検証する手続きである。ガリレオの落体法則は自覚せず用いていた。19世紀の科学者が定式化し近代科学は発展してきた。

しかしこの仮説演繹法も「仮説自体を発見する」ことには無力である。その後、プラグマティズムでアブダクションという方法論が生まれた。これは個別の事象を最も適切に説明しうる仮説を導出する論理的推論であり、仮説形成や仮説的推論と訳される。たとえばニュートン力学で計算しても観察データと合わない。そこで天王星の外にもう一つ惑星があると考えるような推論である。演繹法の観点からは誤謬であり、結論は必然性を持たない。それでも現代の科学研究の実務ではしばしばこの方法によって仮説が生み出され検証されている。それは結論の情報量が増すからである。

私の仕事にて・・・

今回、私はある価値評価を依頼された。そこでは応用志向と理解志向、確率的と決定論的、トップダウン型とボトムアップ型という分け方が指定されたのであるが、それは上記の帰納法と演繹法に当てはまる、とまず考えた。

そこで帰納法の統計データによるヘドニック回帰分析、演繹法としてオプション・モデル(ブラック・ショールズ・モデル、バイノミアル・モデルなど)でそれぞれ分析した。

実際にモデルを検討し実行した。帰納法的なヘドニック分析は近隣同時期の大量のデータが必要であり、結果も大まかな傾向を知ることしかできない。よって今回は演繹的な方法が適正している。ただし、ブラック・ショールズ・モデルやモンテカルロ法は対象の契約のようなアメリカン型のオプションには使えない。以上から本件の場合は、バイノミアル・モデルが最も適していると説明した。

まとめ

よく教養授業や「一般の人が科学を学ぶ」というような講義がある。そこではゲノム、ナノ、天文学などの最前線の細かい話題がテーマになる。しかし、こうした科学の進歩がどういう観測と理論の展開で進んでいるかをおおまかな流れで説明した方がよいと思う。

たとえば「この頃はこう考えていた」→しかし「こういう観測データがあって、うまく説明できなかった」→「そこでこういう説を考えた」→異端だった→その後、正しいことが証明された→ノーベル賞を受賞した・・・

歴史はどうしても政治や戦争だった。最近は、科学・技術や経済との関連の知見が出てきている。

そういった意味で私にとって「科学史」が今、面白い。

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