成果の上がる人間関係、コミュニケーション
ドラッカーによれば、仕事上の人間関係の良い悪いは成果の有無で判断します。和気あいあいとして、楽しい会話があっても成果があがらなければ「不毛な関係」なのです。
多くの人は、仕事上の人間関係とプライベートでの関係を混同しています。そのため、成果のあがる人間関係を築けないのです。
人気お笑いコンビは仲が悪いことが多いそうです。ドラッカーの考えでは、彼らに人気があり、TVのゴールデンタイムにたくさん登場するようであれば、たとえ二人の仲が悪くても、その人間関係は「良好」といえるのです。逆に、売れていないコンビはどんなに仲が良くても、彼らの人間関係は良好とはいえないのです。
野球のレジェンドのイチローさんは、チームワークの定義を「目指すところが同じ」としています。そしてメンバーは仲良しである必要はないと述べています。強いチームは選手同士の仲が悪くても、いざ試合になると全員が同じ方向を向いて、それぞれの責任を高いレベルで果たしていくそうです。重要なのは各人がプロとして自立していること、共通の目標に向けて自分の役割を果たすために最大限の貢献をすることなのです。
仕事上の人間関係とは成果のあがる人間関係です。それには目的を共有し、お互いの役割分担を明確にし、それに基づいた適切な情報伝達がなされていることが必要なのです。そして、その土台となるのは一人一人が自立すること、つまり「自分で考え、行動すること」なのです。
もちろん、個人的な人間関係をよくする必要はないということではありません。仕事上でも個人的にも良好な人間関係であれば、それに越したことはありません。しかし、多くの組織で人間関係の問題が生じているという事実は、まず成果を軸にする仕事としての人間関係作りが大切だということです。
現代社会では“ダイバーシティ(多様性)”が求められるようになりました。多様性とは、さまざまな価値観を認めようとする考え方です。すると、価値観と価値観のぶつかり合いが増えてきます。そうした中で組織が成果をあげるには、メンバーが同じ方向を向くことが必要です。
個人の価値観の多様性を認める以上、共通の目的に対する貢献の責任がより求められるのです。相手の価値観を変えるのではなく、共有できる目的とそこへの自分の貢献に注目するのです。
このように仕事上の人間関係の中心には成果があります。すると、仕事上のコミュニケーションも成果を軸にして行われます。成果をあげる手段としてのコミュニケーションという考え方が必要なのです。
コミュニケーションとは共通の目的を達成するために必要な情報伝達です。そのためには共通の物の見方が必要です。物の見方とはその人にとって「当たり前」のことです。その「当たり前」が一致しないと情報の意味が真逆に伝わることもあるのです。
ある人はその情報をポジティブに捉え、別の人がそれをネガティブに捉えることは珍しくありません。情報伝達とは共通の物の見方があって初めて機能します。コミュニケーションの土台となるのは共通の物の見方です。お互いの役割分担を明確にすることも共通の物の見方の一部と言えます。
仕事とプライベートでは人間関係、コミュニケーションの意味は違います。仕事では成果を中心においた人間関係、コミュニケーションになります。こうした身近な言葉であるほど、明確に定義することが必要になるのです。