自分らしさのために鼻に釘を打ちこんだ話
ある日、私は自分の鼻に9センチの釘を金槌で打ち込むことを決めました。
私はマジシャンをしています。
マジシャンと言えばプロであってもプロでなくても、「この人はすごい個性を持っているな」という印象を持たれるようです。事実、「マジックやっているんです」と人に言うと、同じようなパフォーマーの人たちでなければ食いついてもらえることがほとんどです。
ただ私は”マジシャン”という個性は持っていましたが、そのマジシャンという個性とセットでアピールできる個性を持ち合わせていませんでした。
例えば、代名詞的な演技があるとか、キャラとしての特徴がある、一見普通の人だが素人でもわかるぐらいの凄い技術を持っているなど、マジシャンという個性以外にアピールするものが基本的に必須になります。
マジシャンとして活動する中でそういった”強み”を持っていない人は”没個性”を意味します(業界内でハッキリと明言はされませんが私はそう実感していました)。
普通のマジックしかしない私はある日思い立ちました。
「そうだ、鼻に釘を打ち込むマジックをやろう」
私がやろうとしたのは、何の変哲もない約9㎝のステンレスの釘を木材に打って見せた後、鼻にゆっくりと打ち込んでいく。そしてゆっくりと抜いて終わるという、過激なマジックでした。
私は自分らしさのために鼻に釘を打ちました。
それはなんとか変わっていこうとする私の中での足りなかった最後の一歩だったのかもしれません。
パフォーマンスの場所が変わり、演じていくうえでの自分の見た目やキャラクターがどんどん見た目に強くなっていったことと、普段のファッションや容姿もどんどん 派手なっていくのに対して、私のマジックの方向性は全く変わりませんでした。
マジックをするよりもまず先に印象に残る、自分の見た目が醸し出すキャラクターに肝心な中身の部分が伴っていなかったのです。
その結果、中身を補完しようと紆余曲折し、数多くのマジックの中から”鼻に釘を打ち込むマジック”を選んだのです。私の容貌や普段やる普通のマジックとの振り幅の兼ね合いを考えたとき、これがベストの答えだったのです。
弊害としては、このマジックのインパクトが凄まじいため、他のマジックをする際にも同等のインパクトが求められるというところですが、それもまた次の成長の機会と捉えようかなと思います。
まとめに代えて
何も鼻に釘を刺すような、気が触れたような一歩を踏み出す必要は必ずしもないと思うのです。ただ、私に足りない一歩というピースに合うパズルがそれだったというだけで奇妙な足並みが揃ったということなのだと思います。
危険でなくても、大胆でなくても、本当に自分に足りない一歩を踏み出せば状況は劇的に変わるのかもしれません。
ありがとうございました。