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釜山・影島(ヨンド)で小説パチンコと祖母に思いを馳せ

KTXで釜山旅行に行ってきた。

日本から訪れた姉妹と母に合流して遊ぶ、親孝行と気分転換の旅。

姉が予約した影島(ヨンド)のおしゃれなホテル(ラバルス・ホテル)へは、釜山駅からタクシーで10分ほど。

ホテルもキラキラとおしゃれだったし、三姉妹+母の女4人旅なんて久しぶり過ぎて、ずっとテンション高かった。

ホテルの部屋の窓からは釜山港(プサンハン)が一望でき、29階の屋上テラスからは釜山市内を見渡せた。

ホテルの部屋から
影島(ヨンド)は島といえども、
100メートル程度の橋で本土と繋がっている。
歩道もあるので、何度か歩いて往復した。

影島、ヨンド…

「馴染みのある響きだなぁ」と感じていたが、そうだ!と思い出した。
小説『パチンコ』の最初のページで描かれる、主人公ソンジャの故郷だった。

この影島で、ソンジャは下宿を営んでいた貧しい親元で生まれ育ち、橋がなかった当時、連絡船に乗って魚を買いに本土に行き来する風景が描かれていたな。

結婚後、ソンジャが釜山港から日本へ渡り、鶴橋に定着する情景も、ドラマチックに描かれていた。

アップルTV制作のドラマ『パチンコ』も超大作だった。

パチンコの主人公・ソンジャが祖母と重なり、祖母の話も脳裏をよぎる。

終戦後、一度戻った故郷の韓国・金海で貧しさで生きて行けず、朝鮮戦争を経験し、1953年に再び釜山港から密航船に乗った祖母。

夫を探して瀕死の思いで神戸に戻ってきたものの、夫は別の日本人女性と…
(祖母の人生を聞き取ってまとめた記事 ↓↓)

幼い私の父(当時7歳)を連れての船旅は地獄だったといい、船底に隠れ、何日も飲まず食わず、用も足せない状況で、悪臭と空腹と不衛生に耐え、泣き叫ぶ子供を叩き、睡眠薬を飲ませ… 

耳を塞ぎたくなる話を、亡くなる前の祖母から何度も聞いた。

明るく、解放的で、わくわくする雰囲気の今の釜山の街からは、想像もできない過去の話だが、たったの70年前の話とも受け止められる。

釜山駅は活気に溢れていました
影島での朝ご飯
地元住民に愛されている24時間営業
お家ご飯の店
国際市場の屋台ストリート
ホテルの屋上から
正面に釜山タワーが。
テジクッパ(豚クッパ)の有名店
市場の中の小さなお店
夕暮れも、朝日も素晴らしい眺めでした。

パール・バックの『大地』のような小説とも評価されている、在米作家ミンジン・リーの小説『パチンコ』、私も韓国語・英語・日本語で読んだ。

在日4世代の人生をテーマに、英語で書かれた小説」がまさかの世界的なベストセラー小説になり、アップルTVでドラマ化まで実現した。

正直、この作品のおかげで、英語圏の人たちに在日コリアンの存在を説明しやすくなったと肌で感じる。

在日読者の中には
「物足りない」
「朝鮮戦争の影響が描かれてない」「帰国事業の背景説明が薄すぎる」「朝連や総連などの在日組織の存在感がゼロ」
「登場人物の名前が聖書の人物でキリスト教的な匂いが…」

等、否定的な意見もあるようだが、在日3世の私の個人的な感想を問われたら、ひと言で「大変ありがたい作品」と答えるだろう。

なんせこの作品以来、Zainichiという単語がそのまま英語で通じたりするのだから。(一人勝手に、在日の世界デビューと呼んでいる。笑)

もちろん上記の指摘も十分理解できるが、在日1~2世の꼰대(古臭い)意見のようにも感じるし、『血と骨』のようなドロドロした小説が今の若い世代にウケるのか?世界で広く共感されるのか?という疑問もある。

あくまで個人の趣向によるだろうが、内に、内側に、内面に向かって掘り続けるようなストーリーに、私は疲弊していたのかも知れない。

在日文学はこうあるべき…という在日文学の枠を軽々と飛び越えた、世界中で広く読まれる在日のストーリーを待っていた私にとっては、『パチンコ』は大切な作品である。

何よりもグローバルに広く読ませるためのフィクションであることを踏まえると、上記の指摘事項は、逆に作者の意図的な試みではないか?とも感じる。作者なりに悩み、考え抜いた結果、意図的にその部分に触れずにストーリーを展開させる道を選んだのではないかと。

当たり前だが、本は手にとって読まれないと意味がない。詳細な歴史の勉強なら歴史資料を調べればいい。小説とは、史実や統計を漏れなく正確に読者に知らせるために存在するものではない。

文化や背景が異なる人たちに、どれほど深く共感してもらえるか、どれほど共鳴し一緒にその世界を、その時代を生きてもらえるか、これが小説の価値だと思う。

小説『パチンコ』は、在日テーマの物語を、言語を超えて一気に読ませる力を持った作品であり、それ自体が快挙ではなかろうか。

10年以上(実際には30年かかった作業とも)を費やして、この大作を書き上げた作者のミンジンさんに心からありがとうと伝えたい。

彼女は韓国語も日本語も全く話せない。幼い頃、両親と共に韓国から米国に移民した、ニューヨークをこよなく愛するアメリカ人である。もちろんルーツである韓国への愛情も深い。

ソウルで行われた作者のブックトークイベントに参加したことがある。舞台上のミンジン・リーさんに直接お礼を言うタイミングも勇気もなく、遠くから感謝の気持ちを目で静かに伝えた。(笑)

ちなみにそのイベントは満員御礼で数百名分の席があっという間に埋まり、質疑応答がエンドレスに続い くほど熱気に溢れていた。

在日って何?

ザイニチについてほぼ何も知らない若い韓国の学生や読者が、熱くザイニチについて語り、質問し、学ぼうとする姿に、私は胸が熱くなった。

親孝行も叶い、姉妹との楽しい思い出も作れた今回の釜山旅行。

影島(ヨンド)はとても魅力的な島だった。必ず再び訪れたい。


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