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カレンダーの向こう側〜農家のお茶の間〜 Vol.1 【北沢毅さん】りんごのテーマパークが紡ぐ、ファンとの深いきずな

現在、農家プロデュース&デザイン集団の「HYAKUSHO」では、クラウドファンディングプラットフォーム「CAMPFIRE」を通じて資金調達に成功した「農家さんの 365 日をそのまま伝える HYAKUSHO カレンダー」の制作プロジェクトを実施中です。

こちらのカレンダーは、ひと月にひとりずつ農家さんをご紹介。農家さんへの取材から見えたストーリーを通して、農家さんと消費者を繋げることを目指し、2022年に向けてお届けできるよう、走り出しています。

こちらのnoteにて展開するWEB連載「カレンダーの向こう側〜農家のお茶の間〜」では、農家さんへの取材から見えた「つくり手の生き方」を、より詳しくお伝えしていきます。ぜひ読者の皆さんにも、農家さんと一緒にお茶を飲みながら、お話を聞いているような気分を味わっていただけると幸いです。

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今回のインタビューは、長野県松川町にある「南信州松川 フルーツガーデン北沢」の4代目となる北沢毅(きたざわ・つよし)さん。フルーツガーデン北沢は、開園して78年目となる、りんご栽培をメインにした観光果樹園です。北沢さんは、経営を勉強するため証券会社に勤務をした後、2018年に家業に入りました。

一般的な観光果樹園は「くだもの狩り体験」を行う秋の収穫時期のみ、お客さんを入れることが多いのですが、こちらの農園ではバーベキュー、ライトアップ、花見などのイベントが、1年を通して開催されています。

一般的な農園とは、ちょっぴり異なる仕掛けが生まれる背景には、北沢さんが農園ファンとの間に結びたい、シンプルだけど深いきずながありました。


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足を運んでもらい、ファンになってもらう必然性をつくる

「リンゴ狩りに行かなくたって、ほかにおもしろいものがたくさん転がっている世の中。単純なリンゴ狩りだけでは物足りないですよね。」

スマホゲームやネットなどが普及し、エンタメがあふれるなか、もはや農園のライバルは、ほかの農園だけではなくなっているのかもしれません。北沢さんがつくるのは、農園に足を運んでもらう必然性。

「農園では、バーベキューや、りんごの木のライトアップ、花見、農園で醸造したシードル試飲会などのイベントを行っています。農園で楽しめるのは、リンゴ狩りだけではないんです。」

リンゴ狩りをしながらのバーベキュー。今まで耳にしたことはなかったのですが、とってもおもしろそう。まるで、りんごのテーマパークのようです。

「りんごの木は、季節ごとに見せる表情が変わります。例えば春だったら白いリンゴの花が咲き誇り、夏だったら緑の葉っぱに赤い実が可愛いらしい。農園の景色を、1年中楽しんでもらえます。」

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現在、北沢さんは日本バーベキュー協会が認定する「バーベキューインストラクター」の資格を取得するほど、バーベキューに夢中なのだそう。アメリカ式の大きなグリルを用いて、肉の塊を焼いたり、新しいレシピをつくり出したりすることに情熱を傾け、イベントではお客さんをもてなします。

「バーベキューでは、りんごももちろん活躍します。肉にりんごを挟んで焼いた料理や、りんごの中をくり抜いて肉を入れた、ピーマンの肉詰めみたいな料理なんかも、めっちゃおいしいんですよ。」

フルーツガーデン北沢は、りんごをスーパーなどに卸すのではなく、主にりんご狩りや贈答品用、様々な加工品として販売しており、お客さんの手に届くまでの全ての工程を、自分達で設計しています。

イベントなどのダイレクトマーケティングのほか、ブランディングも実施。代々受け継がれる屋号を、ロゴマークにデザインし、りんごを入れる袋や箱、りんご加工商品のパッケージにプリントすることで、アイデンティティを表します。手に取ってもらった方に「フルーツガーデン北沢」と認識してもらう意図が込められています。

「おいしいりんごをつくるのは当たり前。どこの農園さんのりんごも、おいしいんです。だからこそ、この農園に足を運んでもらって、とりこになってもらい、お客さんにファンになってもらう、説得力のある理由をつくる必要があります。」

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家業に入る前は、証券マン。情熱と戦略思考のルーツ

子どもの頃から、農園を身近に育ち「お客さんの顔が見える、話しながらの販売がおもしろそう」と、家業を継ぐことを志します。しかし、大学卒業後に選んだのは、証券会社勤務の道。

「農家になる前に、絶対経験できないような場所に行こうと思ったんです。財務や人事についての知識など、家業を事業として成り立たせていくためのノウハウや考え方を、多くの経営者から吸収したいと、金融業界を選びました。」

主に法人向けの新規開拓営業を3年半経験することにより、経営者の事業に対する考え方や、マーケティングなどの重要性を学べたそう。

「お客さんである経営者は、とても忙しく、僕以外からもたくさんの営業を受けています。多額のお金を任せる相手として、入社数年目の自分が選ばれる必然性を、なんとかつくらないといけませんでした。

可愛がってもらえる人間性も必要ですし、他社の提案とぶつかった時には、こちらを選んでもらうためのロジカルな説明が必要でした。
あの頃の、思いを伝えながらも、数字を用いて説得力を持たせる提案経験、そして戦略を立てた経験は、今でも生きています。」

北沢さんから垣間見える、農園に対する熱い情熱を持ちつつも、冷静に論理的に現状分析をする、まるで相反するような思考が両立するルーツは、この営業キャリアかもしれません。

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「みんなでうまい飯と酒を楽しみたい」ファンと深いきずなを結ぶ

これから農園で挑戦していきたいことは、「ファンとの関係を築く」ことです。例えば、りんごの生育をファンと共有するコンテンツや、ファンが集うコミュニティづくり。

「今年だけで4回も農園にいらっしゃった方からは、りんごを食べるだけじゃなくて、りんごの生育を追っていきたいと、嬉しい希望をもらいました。さらには、フルーツガーデンに集まる人たちと飲み会を開きたい、という声も届いています。」

お客さんのなかには、毎年他県から訪問したり、親子3世代揃った旅行先として選んだりするような、コアなファンも多いそう。

そんなファンと北沢さんが結びたいのは、シンプルだけど、深いきずな。

「みんなでうまい飯と酒を楽しめる繋がりを持ちたいですね。農園で0からつくり出したものを届けて、喜んでもらえる瞬間が嬉しいんです。そのためにも、バーベキューイベントを、もっと根付かせたいですし、ファン同士も繋がれる仕掛けをつくっていきたい。きずなを紡いでいきたいです。」


イベントを企画する農園は、まるでテーマパークのよう。しかし、そこから互いに信頼しあえる関係になれたとたん、互いの心の距離が近づく、北沢さんの裏庭のようにも見えてきます。
りんごの木のもと、煙と歓声があがり、肉が焼かれる景色。一見アンバランスのようだけれど、しっくり馴染むのが、北沢さんのいる農園です。

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北沢毅
1991年生まれ。1942年創業の観光果樹園「フルーツガーデン北沢」の4代目。南アルプスに抱かれた園地で、りんごや梨、プルーン等の栽培や加工品づくりを行う。美味しいものを作る/食べる/食べてもらうのが好き。農園観光やイベント、シードル自家醸造等を通してりんご農家の可能性を広げ、自分たちの住まうこの場所をもっと魅力的で、面白いものへ変えていくことを目指している。

「南信州松川 フルーツガーデン北沢」   https://fgkita.com/



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