砂上の楼閣 24
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「これを」
目の前の女が紙製の小さな商品袋を差し出してきた。
商品袋には店名なのかブランド名なのかローマ字が簡素に並んでいる。
簡素な袋は中身が特に高級なものではないことを伝えていた。
トゥーリアは相手の意図を探るように目の前の女――琴占言海の顔を数瞬見つめて、それから袋の方に視線をもう一度落とした。
久しぶりの『仕事』だった。
なんせしばらく囚われの身だったのだから当たり前だ。
弟を人質に取られ『オーブ』の仕事を請け負い、その結果世界最強のFP能力者である琴占言海と会敵し、あっさりと敗北。
『協会』に身柄を捕らえられた。
そこから一転、諸事情により琴占言海と個人間での契約を結ぶことになった。
手始めに、人質となっていた弟を取り戻し、安全を考慮してこの国へ運んでくるという一大事に同行したものの、そちらは『仕事』ではなく『私用』を手伝ってもらった形に近い。
なので、思い返してみてもトゥーリア・グレイスが依頼を受けて『仕事』をするのはおおよそ二か月ぶりだった。
『オーブ』の施設から情報を集めてくる、という依頼を言海から受けたのは三日ほど前で、その依頼をこなすために空港へと足を運んだところで、トゥーリアは背後から声を掛けられた。
振り向けば、そこに居たのは依頼主で現雇い主である言海だった。
言海はトゥーリアを見つけたことに軽く安堵したように微笑んで、それから何かをトゥーリアへ差し出したのだった。
「これは……なんですか?」
訊ねるべきか、一瞬の躊躇があったのは、仕事柄理由を訊ねるべきではないことが殆どだからだ。
『運び屋』とは本来そういう仕事だ。
訊ねたのは、相手が言海だったから。
実際に会っている期間でいえば、たかだか一月程もない程度だが、既にトゥーリアは言海をかなり信用していた。
絆された、と言われても否定は出来ない。
裏表のようなものが無く善性の強い彼女に、自分より大切な弟を救われてしまったのだ、信用するなという方が難しい。
だから、トゥーリアは訊ねた。
言海はニヤリと得意気な表情を浮かべた。
「餞別……、あー、なんて言ったらいいんだろうか? 贈り物?」
数秒前の表情とは裏腹に言海が今度は首を傾げた。
言葉をなんと訳すべきなのか分からなくなったのだろう。
とりあえず、贈り物だということは分かったので、トゥーリアは受け取った。
商品袋は見た目どおり軽く、厚さもあまり無い。
中身を見てもいいのか、と視線を言海に振る。
言海があっさりと首を小さく縦に振ったので、トゥーリアは袋を開けて中を確認した。
中には丁寧に包装された小さなナイフが見えた。
「これは……なんですか?」
疑問がもう一度口を突いて出た。
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