砂上の楼閣 20

 クリティカルではない、というのをトゥーリアはすぐに手応えで理解した。
 数メートル地面を転がったジェルドのそれもダメージ軽減のための動作。
 追撃を行うにはトゥーリアの体勢に無理があった。
 ジェルドは体の回転を上手く生かすようにして、膝立ちの体勢へ立て直すと同時にトゥーリアへ向かって杖を振った。
 トゥーリアは着地と同時に能力で強化したバックステップで迅速に距離を取る。
 直後、トゥーリアの居た位置で魔法陣が光り、火柱が上がった。
 攻撃は終わりではない、トゥーリアを追うように魔法陣が出現し、今度は地面から棘状の塊が飛び出す。
 それも直前で避ける。
 攻撃、回避、攻撃、回避。
 数度、行動が繰り返されたところでトゥーリアの頭上から異音が鳴った。
 (マズい……!!)
 即座に状況に気付き、対処を考えるが直前の回避からまだ体勢が立て直せていない。
 トゥーリアに為す術がないまま、どぽんという音とともに天井から水塊が降った。
 つい先程まであの聖騎士を閉じ込めていた魔法。
 おそらくジェルドの扱う魔法の中でも強力なものの一つで、トゥーリアが捕らえられれば中から脱出する術などほとんど存在しない。
 万事休す。
 それでも足掻くため、思考を働かせるトゥーリアの視界の端に影が映った。
 ヒュンという鋭い風切り音。
 遅れて、トゥーリアを飲み込まんとしていた頭上の水塊が崩壊した。
 聖騎士。
 いつの間にか、トゥーリアと背中合わせになる様な形で彼は立っていた。
 「チィッ!!」
 こちらまで聞こえるほど盛大な舌打ちを鳴らし、ジェルドが再び杖を振る。
 魔法陣を複数展開させるが、それらが光り、発動するよりも早く、聖騎士が剣を振る。
 魔法陣は距離に関係なく発動直前で切り裂かれ、大気中のFPへと帰っていく。
 ただ一つとして逃すことなく、頭上の水塊の崩壊に伴う土砂降りのような水流の中、正確に発動前の魔法陣を切り裂いた。
 その神業のような超技術を背後に感じながら、トゥーリアは振り向けなかった。
 『グゥオオォォォオオ!!』 
 トゥーリアの視線の先。
 怪物が全速力で迫っていた。
 トゥーリアと聖騎士の二人をまとめて攻撃するつもりだろう。
 回避という手段はある。
 が、未だ信用していいか不明とはいえ聖騎士を放っておくわけにもいかないだろう。
 トゥーリアはFPを練り上げる。
 迫り来る怪物をしっかりと見据え、照準を合わせる。
 距離とタイミング、その両方を見極め、能力を発動させた。
 『射出』したのは、先程までジェルドの魔法によって動いていた足元の大量の水。
 元々、銃撃の速度で撃ち出すことが出来るトゥーリアの能力で水流を作り出せば、その威力はとにかく大きい。
 更に、トゥーリアが照準したのは怪物の足元。
 走る為に持ち上げた足を正確に狙った水流は、容易く怪物の足元を掬った。


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