砂上の楼閣 19
瞬時に魔法陣が宙に現れる。
その数、五つ。
魔法陣はすぐに輝き、即発動。
炎の柱が噴き出した。
トゥーリアは足を緩めない。
ジェルドの炎の魔法は散々見た。
おそらくジェルドにとってこの魔法が一番出が早くて扱いやすく、高威力の魔法なのだろう。
しかし、その分融通の効かない部分もあるようだった。
魔法陣から噴き出す炎の柱のその噴出方向は、魔法陣を見れば簡単に予測できる。
不意打ちでもない、真正面からの魔法であれば、避けることも難しくない。
重要なのは分析、予測、集中、そして覚悟。
トゥーリアは駆けながら、FPを細かく操作し、五つの炎の柱へ挑む。
足を置く位置と能力の発動の有無や強さ、タイミング。
それらを駆使し、ジェルドの攻撃を躱した。
コートの裾、袖口、頬、髪の毛先。
炎がかすったが、それでもダメージとしては無傷。
百メートル以上あった距離を一瞬で詰め切った。
ジェルドとトゥーリアの視線が二メートルで交わる。
最後の一歩。
トゥーリアの右足が、ジャリっと細かい瓦礫を踏みつけた。
FP能力を発動させる。
足元の瓦礫が散弾となってジェルドに襲い掛かる。
ジェルドは、驚愕の表情を浮かべながらもほとんど反射的に身を躱し、避ける。
避けながら、小さくでも杖を振った。
魔法陣が浮かぶ。
完全に距離を詰めたトゥーリアは拳を握っていた。
トゥーリアがFPによって強化した拳を打ち出すのと、魔法陣の発光は同時だった。
発動できたのは、威力もほとんどない風の魔法。
空気の壁のようなものがトゥーリアを阻もうとするが、ほんの数瞬にも満たない時間を稼いだだけで、すぐにトゥーリアのFPの乗った拳が魔法を破壊した。
トゥーリアの拳の勢いは殆ど衰えずにジェルドを狙う。
が、稼いだ時間で体勢を立て直したジェルドが再び躱し、トゥーリアの拳は空を切った。
その隙を逃すはずもない。
ジェルドが杖を握っていない左手を伸ばした。
狙いは首。
攻撃を外し、体勢を崩したトゥーリアの首を片手で掴んだ。
この距離なら、魔法を使うよりも速い。
そのまま、握りつぶすように握力を強めようとした。
しかし、トゥーリアは冷静にジェルドの上半身を狙い、蹴りを放つ。
咄嗟に、ジェルドは左手の握力を緩め、防御する。
FPで強化された重い蹴りがジェルドを襲う。
防御は間に合った。
ジェルドの側もFPで強化し、なんとかトゥーリアの蹴りを受け切った。
が、ジェルドの体勢が崩れる。
次の一撃に備えなければ、マズい。
ジェルドの思考が回る。
トゥーリアは体勢を立て直した。
杖を振る、その隙はない。
出来たのはFPによる全身の強化を強めることだけだった。
体勢を立て直したと同時にトゥーリアは身を捻った。
勢いをつけ、そのまま回転蹴りを放った。
まともに喰らったジェルドが地面を転がった。
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