砂上の楼閣 18

 空の薬莢はFPによって推進する。
 その場の誰よりも速く、目標へ。
 FPによる身体強化と狙撃のための集中によって、トゥーリアの視界に映る世界は時間的に圧縮されて見えた。
 そのスローモーションの世界で見える、FPを伴う薬莢は、流星のように見えた。

 トゥーリア・グレイスは『運び屋』だった。
 FP操作に長け、探知や走査をはじめとする索敵、純粋な肉体強化、そして『射出』というFP能力を持つ。
 それらの能力を駆使して最低限以上の戦闘もこなす。
 が、『運び屋』はあくまで『運び屋』。
 けして、自らを「戦闘が得意なもの」と考えたことは無かった。
 しかし、その上で得意だと自負できる戦闘技能がもう一つあった。
 それは射撃精度。
 実銃や投擲武器、弓や時には原始的な投石。
 それらすべてで「的に当てる」という行為に関して、外すことは殆どなかった。
 ましてや自らのFP能力で『射出』した本物の薬莢であればなおさらだ。

 つまり、トゥーリア・グレイスの放った弾丸は一直線に、違うことなく目標へ向かった。
 怪物の脇を抜け、聖騎士の囚われた水塊を避け、そして――。
 それまで必死に水塊の方を凝視していたジェルドが、何かを感じ取ったらしく視線を動かした。
 トゥーリアとジェルドの視線が交わった。
 口角を上げるトゥーリア。
 驚愕の表情を浮かべるジェルド。
 もう遅い。
 トゥーリアの狙いはジェルドの手元。
 魔法を操るその杖。

 バヂィッ!!と光を伴って凄まじい音がジェルドの手元から放たれた。
 それは、おそらくジェルドが元から展開していた杖及びそれを持つ手元を保護する魔法とトゥーリアの弾丸とFPが激しく衝突したことで起こった現象だった。
 即ち、弾丸は防がれた。
 しかし、トゥーリアの口角が下がる事は無い。
 ジェルド程の戦闘慣れした使い手だ、その程度の対策はしていて当然だろう。
 だから、そんなことは織り込み済みだ。
 弾丸が防がれたって構わない。
 重要なのは、ほんの刹那の時間でもジェルドの集中を乱すこと。
 ジェルドの魔法のバランスを崩すこと。
 それだけ。
 それだけで、いい。
 それだけでFP能力者の頂点に君臨する者には充分過ぎる時間だろう。

 直後、水塊が盛大破裂した。
 四方に水と瓦礫を撒き散らす。
 トゥーリアは周囲の空気を『射出』し、身を守る。
 数瞬の間に水と瓦礫は収まる。
 トゥーリアが視線を動かす。
 怪物はその動きを止めて、顔を守るように両腕を交差させていた。
 ジェルドは茫然と怒り、そして焦りの、そのどれもが混ざったような表情で前を見ていた。
 その、ジェルドの視線の先。
 そこに、一滴の水に濡れた様子すら無い紺青の鎧が立っていた。

 「……がッ……!! ……クソがぁぁあアアッ!!」
 ジェルドは怒りに任せ、咆哮。
 杖を振り翳す。
 トゥーリアも能力を発動させ、距離を詰める。

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