砂上の楼閣 13

 間に合わない……!
 頭で瞬時に理解しつつも、トゥーリアはFP能力を発動させ突風で炎の柱を迎え撃った。
 ほんの一瞬の時間稼ぎのつもりだった。
 その一瞬で次の一手を考える、がそうそうに思い付く訳もなく。
 炎の柱は、その勢いを緩めることなくトゥーリアへ迫った。
 万事休す。
 トゥーリアがコートの内ポケットへ手を伸ばした時だった。
 振動。
 空間全体を揺らす大きな振動はFP振動であろうか。
 否、それだけではなく空間全体が物理的な振動を伴っていた。
 トゥーリアへ迫る炎の柱はほんの一メートル手前、勢いから考えて一瞬にも満たない時間のうちに到達するであろう距離にあった。
 それを遮るように、黒い影が、天井を突き破って現れた。
 炎の柱はトゥーリアへ届かなかった。
 「あ……?」
 突如として現れた闖入者によって攻撃を阻まれたジェルドが不愉快そうに声を上げた。
 トゥーリアは状況が飲み込めず、コートへ手を突っ込んだまま固まった。
 ジェルドが魔法陣へさらにFPを込めた。
 魔法陣が応え、一層強く輝くと炎の勢いが増す。
 が、闖入者に堪えた様子は無く、激しい炎の中でゆっくりと立ち上がった。
 闖入者は立ち上がり、腰に佩いていた西洋剣を抜き放つ。
 青白くうっすらと発光して見える刀身を、丁寧な動作で体の前に構え、そして自らに迫り続けている炎の柱へ、振った。
 その斬撃は、トゥーリアから見てかろうじて目で追えるような凄まじいスピードだった。
 ブワッ、と空間の空気が動いた。
 FPが動いた。
 次の瞬間には、あれだけの激しく燃え盛っていた炎の柱が、あっさりとあっけなく掻き消えていた。
 「は……?」
 今度は、間抜けな声をジェルドは上げた。
 トゥーリアはやっと少しずつ思考が回り始めた。
 目の前の闖入者の姿を、やっと捉えることが出来た。
 大袈裟にすら見える頭から足元まで全身を覆う鎧は、紺色に鈍く光る。
 右手には先程抜き放った青白く光る剣、左腕には全身鎧と同じ紺色地に金と白で厳かに装飾された盾が装備されていた。
 改めて、その姿を見てみてもそれ以上の情報は得られない。
 なんせ全身鎧で顔までも完全に覆っているため、中の人間の身長や体形、性別など全ての情報が閉ざされていた。
 それでも、トゥーリアの脳裏には一人の人物の名前が思い浮かんでいた。
 FPを操る者ならその名を知らぬ者はそう多く無いだろう。
 「聖……騎士……ッ!!」
 ジェルドが苦々しい声でその名を口にした。
 『聖騎士』。
 紺青の全身鎧に身を包む、顔も、出自も、経歴も、本名も、年齢も、性別すら不明。
 分かっているのは『協会』所属のFP能力者であること。
 そして、その実力と通称。
 FP能力者たちの頂点に立つ能力者、『五天』が一人『聖騎士』。

 紺青の全身鎧がガシャリ、と静かに鳴らし、剣をゆっくりと構えた。
 それだけ。
 それだけで、地下空間全体のFPが大きく震えた。
 空気が、変わる。

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