砂上の楼閣 15

 一つ一つの炎の柱でさえ、あれほどの威力と高温を持っていた。
 それが連なり、束になって一点に向かえば、その威力と熱量は計り知れない。
 そして、そんな威力の魔法攻撃が構えたまま動かない聖騎士を襲った。
 瞬間的に聖騎士の居る、或いは居た空間の温度が急上昇し、空気が爆発的に膨張、結果突風が生まれる。
 爆発にも似た勢いの現象に、トゥーリアも空気を動かし対抗する。
 が、回避のため空中にいたトゥーリアでは勢いを殺す事と、最低限の熱から逃れる事、そして未だ燃え盛る炎の柱を避ける事が精一杯だった。
 自身の跳躍の勢いと突風の勢いを読み切り、トゥーリアはなんとか無事に着地した。
 息を吐く暇など無い。
 怪物を見る。
 迫ってきていたはずだったが、ジェルドの炎の柱に阻まれたのか、その姿はかなり離れた位置にあった。
 ジェルドの攻撃は未だ続いている。
 聖騎士の位置は白色に発光しているようにすら見えた。
 トゥーリアの額に汗が浮かぶのはその熱量が凄まじいから。
 これだけの攻撃が嵌れば、流石の『五天』の能力者と言えど――。
 否。
 脳裏に過ぎった考えを、トゥーリア自身が即座に否定した瞬間だった。
 ブゥン!!と空気を切り裂く鋭い音が、離れた位置にいるトゥーリアの耳にも確かに聴こえた。
 真っ白な炎光が横一閃に斬れた。
 大気が、空間を満たすFPが、同じように斬られる感覚。
 遅れて空気が動き、そして魔法陣が一斉に破壊された。

 「は……?」
 ジェルドの声が、不思議なほどに響く。
 炎の柱は一瞬にして消え去っていた。
 視線の先は、先程まで真っ白に超高温に晒されていたはずの位置。
 その位置に、紺青の鎧が立っていた。
 無傷。
 どころか、ご丁寧なことに周囲にも先程の超高温が影響しているようには見えない。
 紺青の騎士は、相変らず一音すら言葉を発することなく、仄かに青白く光る剣を構えなおした。

 驚愕、からの怒り。
 ジェルド・ファウオの額に青筋が浮かんだ。
 「ク……ッソがァァァアアア!!」
 乱暴に杖が振られた。
 特大の魔法陣が出現し、即座に輝く。
 聖騎士の周囲、半径数メートルの円上の地面のランダムな位置が隆起し、棘となって聖騎士に襲い掛かる。
 その一つ一つを、聖騎士は左腕の盾で防ぎ、或いは右手の剣で斬り防ぐ。
 その動作は流麗かつ高速。
 ジェルドの攻撃が聖騎士に届くことは無い。

 『グゥオオォォォオオ!!』 
 不意に怪物が咆哮した。
 トゥーリアを追っていたはずの怪物は、いつの間にか聖騎士の方へ向かってた。
 それは、怪物の本能と呼べるようなものがより危険な方の排除を優先したのかもしれない。
 聖騎士がほんの一瞬、怪物の方へ反応した。
 怪物の腕が持ち上がる。
 その瞬間を見逃すことなくジェルドが杖を振るった。


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