初めての仕事
私が初めて仕事をした日。それは私が小学校低学年だったとき。お祭りで子供がお煎餅屋さんをやる企画があって、それに親が申し込んで、参加することになった。姉も一緒に参加した。姉も当時は小学生だった。
当日現地に行った。姉以外はみんな知らない人だった。1クラス分くらいの人数がいたが、何チームかに分けられた。1チーム5人とかそのくらいだったと思う。私と姉は青チームに分けられた。青色のエプロンをもらって、いよいよお煎餅作りに取り掛かった。
お煎餅作りは何個か役割があった。お煎餅を焼く人がいれば、醤油を塗る人もいたし、レジで対応する人もいれば、商品を渡す人もいた。確か試食を提供する人もいた気がする。呼び込みとかもやっていたっけ。これらの役割はローテーションで回ってきて、みんなが全部できるようになっていた。
自分は当時レジの対応に憧れていた。だから、自分のレジ担当が回ってきたときはお金を扱うという緊張と憧れのレジ対応という期待があった。レジ対応は個数を入力して、お客さんからお金をもらって、お釣りとレシートを渡す、というシンプルなお仕事だった。
しかし、そのレシートが曲者だった。入力してお金を入れれば、勝手にプリントされるので、それは良かった。しかし、そのプリントされた紙を切るのが超難関なのである。よく見るレジの店員は何事もないようにシュッとレシートをとっているが、そうはいかなかった。これは私が幼かったからなのか、レジの機種の問題なのかは分からないが、とにかく紙がうまく切れなかったのである。
それでもレシートの下側をびりびりにしながら、レシートを切ってお客さんに渡すことができていたが、事件は起きた。私がレシートを真ん中で切り裂いてしまったのである。紙を引っ張ったら、思いもよらないところで切れてしまい、レシートは真っ二つ。後ろにいたスタッフの人がお客さんにレシートなくても大丈夫ですか、すみませんって謝ってた。
お客さんが帰ったあと、スタッフの人に声をかけられた。次商品渡す係やろうね、って。まだ小さかったけど、その言葉の意味することは理解できた。憧れだったレジ担当は束の間だった。
自分は自分の犯した罪を恨んでいた。あのときレシートを破いていなければ、レジがもう少しできたのかもしれない。ブルーな気分でお客さんに商品を渡そうとすると、お客さんが私の方を見て言った。
ありがとうね。
私はその言葉が嬉しかった。たった一言。その言葉が嬉しかった。商品をもらうときにお礼を言うことは稀なことではないかもしれないけど、その六文字に救われたような気がした。
そこからは、商品を渡す仕事が楽しかった。難しい仕事ではなかったかもしれないけど、やりがいのある仕事だったと思う。レジの時には見えなかったお客さんの笑顔が見えて、たくさんの人に声をかけてもらって、私は幸せだった。
今となってはレジの店員はそんなに憧れないし、きっとレシートだって上手く切れるだろうし、レシートがないことはそこまで困らないことを知っているから、こんな感動はしなかったんだろうなって思う。何も知らなかった当時だからこその幸せなんだろうなって。
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