黒猫と100日の奇跡

静かな田舎町に住む小学生、佐藤勇太は、いつも同じ日々を過ごしていた。学校に行って友達と遊び、宿題をして眠るだけの毎日。そんな中、彼の前に突然現れた一匹の黒猫が、日常を大きく変えることになる。

その猫は不思議なほど艶のある黒い毛並みを持ち、どこか人間じみた目で勇太を見つめていた。勇太が「おいで」と声をかけると、猫はするりと彼の腕の中に飛び込む。

「君、僕を選んだんだね」

驚きで固まる勇太の耳に、猫の声が直接響いた。猫が話しているのではなく、頭の中に語りかけられているような感覚だった。

「僕はクロ。君と一緒に旅をするために来たんだ。これは運命だよ。」


次の日、クロに導かれるまま、勇太は学校を休んで近くの森へ向かった。森の奥に進むと、そこには見たこともない大きな扉があった。クロが小さな肉球で扉を叩くと、扉は音もなく開き、眩しい光が勇太を包んだ。

目を開けると、そこはまるでおとぎ話のような世界だった。空は七色に輝き、大地には見たこともない花々が咲き乱れている。クロは勇太を見上げて言った。

「ここから始まるんだよ。君の100日間の冒険が。」


最初の10日間、勇太はクロと共に幻想的な街々を巡り、多くの人々や生き物に出会った。ある街では空を飛ぶイルカに乗せてもらい、またある村では踊る木々と共に楽しい宴を過ごした。どの体験も新鮮で、胸がワクワクするものだった。しかし、それと同時に、勇太はこの世界に潜む「影」という存在に気付き始める。

影は、勇太の心の中にある弱さや不安に反応し、彼を惑わせる力を持っていた。ある日、影に襲われた勇太は、クロの助けでなんとか逃れる。クロは真剣な目で勇太を見つめて言った。

「君が自分の弱さと向き合わないと、この旅は成功しない。100日後に君は大切な選択をしなければならない。その時までに、自分を見つめ直してほしい。」


次の40日間、勇太は試練に挑む日々を過ごした。火山の頂上で勇気を試され、深い湖の底で本当の気持ちを見極める力を学ぶ。試練を乗り越えるたびに、勇太は少しずつ自信をつけていった。

その中で、クロの過去についても知る。クロもかつては人間の少年と一緒に旅をしていたが、その少年は最終的に影に負けてしまい、悲しい結末を迎えたという。

「だからこそ、君には成功してほしいんだ。勇太ならきっとできる。」

クロの言葉に元気をもらい、勇太は旅を続ける決意を新たにした。


旅の終盤、90日目。勇太とクロは、世界の中心にある「運命の神殿」にたどり着く。そこには、これまでの冒険で出会った人々が待っていた。彼らは勇太に感謝を伝えつつ、最後の試練が迫っていることを告げる。

その試練とは、勇太が「世界を守る選択」をすることだった。影の勢力は次第に強まり、この美しい世界を侵食しつつあった。勇太には、影を完全に封じ込めるために大切な何かを差し出すか、影を受け入れ共存する道を探すかという二つの選択肢が与えられる。

「どっちを選んでも、この世界は変わる。でも、その先にある未来は君次第なんだよ。」


100日目の朝、勇太は最終的な選択を下した。彼はクロと共に神殿の中心に立ち、すべての光と影を受け入れる覚悟を示した。自分の弱さや影の存在も否定せず、それらを包み込む新しい世界を作る決意をしたのだ。

その瞬間、クロの体が光に包まれ、小さな声が響いた。

「ありがとう、勇太。君は僕が100年待ち続けた答えを見つけてくれた。」

クロは消えてしまったが、その光は世界中に広がり、新しい時代の始まりを告げた。


現実に戻った勇太は、100日間の記憶を胸に秘めながらも、以前とは違う目で日常を見つめていた。クロとの冒険は終わったが、その経験は彼の心に生き続けている。

部屋の片隅に置かれた古い鏡に目をやったとき、鏡の奥で一瞬、クロの姿が揺らめくのを見た気がした。

「…クロ?」

声をかけたが、返事はなかった。しかし、鏡の奥に浮かび上がった一行の文字が、彼の胸をドキリとさせた。

「次の扉はもうすぐ開かれる」

勇太はその文字をじっと見つめ、小さくうなずいた。

「また会えるよね、クロ。」

彼は微笑みながら、明日への一歩を力強く踏み出した。

いいなと思ったら応援しよう!