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「虎好き虎模様」ショートショート【1600字】
「もうすぐやってくる」
寅年に生まれた俺は、虎が大好きだ。
部屋には虎の置物や壁には虎の絵、虎模様のタトゥーまで入ってる。
実は母や父も寅年生まれで、母いわく「父さんは虎年生まれでも気の弱い猫だわ」
怖い父だったが、優しい寡黙な父だった、子虎の俺としては父は気の弱い感じはしなかった。
「私は五黄の虎だから私にかなうものはいないのよ」
母は謎の虎を味方に付けPTAの中でも同級生の親に食ってかかるような凶暴な虎だった。
そんな両親に育てられた子虎の俺。
社会に出たが、なかなか仕事うまくいかず転々としていた。
虎は1匹で暮らすもの。
今はなんとなくそんなイメージで生きてる。
この街で1人で生き抜いてやると決意をした。
そんなある夜散歩に出た。
冬の冷たい風が肌に刺さったが雪国育ちの俺には都会の冬は大した問題ではない。
ふと1匹の黒猫が目の前を横切った。
その猫は俺の方をチラッと見てついてこいと言わんばかりにゆっくりと歩き出した。
俺はその猫についていった、たまに振り返り俺がついてきてるかどうか確認する。
目の前に公園が見えた。
冬の夜の公園は人気も無く虫の声も無い。青白い街灯がついていて、余計に物悲しい。
しかし何故か不思議な光に包まれていた。
よく目を凝らすとそこら中に猫がいた。
ぱっと見えるだけでも10匹以上。
そして真ん中の休憩所のテーブルの上に1匹の大きな白猫がいた。
そしてその前に2匹の猫が向かい合っている。
「フッーッ‼︎」
猫はお互いに威嚇しあっていた、今にも互いに襲いかかろうとしている。
瞬間
片方の猫が動き出す、ほぼ同時につかみ合いの揉みクシャのバトルになった。
団子のように2匹掴み合って絡まり合うように転がっている。
噛み付いてひっかきあって絡まって猫キックの連発技。
茶色の猫に少し血が滲む。
周りの猫たちはそれを見て車のような形になっていて傍観しつつも、すぐにでも走り出せるような格好だ。
どう見ても茶色の猫の勢いがなくなり逃げ腰に見えた。
耳を伏せながらも「シャーッ!」っと威嚇をしているが勝者は明らかだ。
もう一方の猫はさらに襲い掛かるが茶色猫は下手になってしまいこのままでは死んでしまう、そのぐらいの勢いで噛み付かれていた。
ここまで案内してきた黒猫は俺の方を見ていた。
その目が合うと同時に俺は飛び出し、
「コラー!!」
さすがに猫の喧嘩に介入するのはどうかとも思ったが、子虎もさすがに大勢の猫にはかなわない。
勢いに任せて大声を上げたもんだから猫は一斉に蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。
怪我した猫も走り去っていったが見た目以上に元気そうだったので安心した。
ふと休憩所のテーブルの上を見ると戦いの行く末を見守っていた大きな白猫がこちらを見ていた。
ぺろぺろっと右足をなめてなめて顔を洗う。
そして一言「やれやれ、あの子らには困ったもんだ、ありがとう」と鳴くと悠々と歩き去っていった。
あの猫はボスなのだろう最後の鳴き声は俺の脳内ニャウリンガルがそう聞かせたんだと思った。
これが噂に聞く猫の会議
しかしその光景はさながら闘技場だった。
それから数日後、公園の前を通る。
ふとあの日のことを思い出し、あの時怪我をした猫がいないか、気になり探した。
休憩所のテーブルの上にボス猫とあの時怪我をした茶色猫がいた。
「もうこの子はここでは暮らせない、助けたお前が面倒を見てやってくれ」
ニャーとしか言ってないのに脳内ニャウリンガルが変換する。
「よろしくお願いします」
ボス猫は歩き去るが、その虎柄の猫はそこにとどまっていた。
そっと頭を撫でると頭を差し出し「ニャー」と目を細めてゴロゴロ言っている。
「このままほっとけないしな」
俺はその猫を病院に連れて行って治療してもらった。
このしましまの虎柄の猫は女の子猫だったのもわかった。
寅年の朝、虎好きの子虎は虎柄の女の子を嫁にした。
俺は寅年生まれ。
虎に憧れた虎柄猫だ。
「2022年ついに俺の年がやってきた」
あけましておめでとうございます。
2022年寅年