『青い手紙』
「私は何度も転職する人が嫌い」
「もう連絡してこないでください」
その手紙にはそう書いてあった、突然連絡が取れなくなった彼女。
予兆はあった、スマホを通じて感じる違和感。
毎日「おはよう」や「おやすみ」
といった最低限のコミュニケーションを絶った事はなかった。
違和感を察して、次第に連絡が遠くなった。
仕事が終わり、画面には何の表示もない。
ヘトヘトになった体に追い打ちをかけるように、気持ちまでが重さを増してくる。
切れかけたアパートの蛍光灯。
郵便受けを開けると、青い封筒が目に入った。
余白に丁寧に貼られた切手。
俺自身が見た事がない位、丁寧に書かれた俺の名前。
裏には彼女の名前だけ。
少し期待はしたが、なんとなく察する。
これは別れの手紙だろう。
冷たい色した丁寧な青い手紙。
鍵を開け部屋に入り、荷物を放り投げる。
ベッドに腰掛け、ハサミで端を細く切りその封筒を開けた。
彼女の綺麗な文字が並んでいた。
期待を打ち砕く様にこれ以上ない鋭利な文字が並ぶ。
突然連絡が無くなる事よりも、はっきり伝えられた方がマシだと思っていた。
「事故か何かにあったのでは?」
状況から言って、無さそうな事まで想像していたが、ただ単に2人は終わっていたのだ。
「もう連絡してこないでください」
そう言われても、話したい事はたくさんあった。
俺は、精一杯大人ぶり、連絡をしなかった。
過ぎ去った日々を思い返してもあの日は戻らない。
後悔や悔しさ。
失敗も経験だったと、幸せだった日々ありがとうと、そんな想いに変換してしまい込んだ。
変わらず、そこに留まる事を望んだ彼女。
理解できなかったが、彼女にとって理由は何でも良かったのかもしれない。
終わる理由を考えても、何も生まれなかった。
そうして3年が過ぎた。
たまたま見つけた小高い丘に寄った。
眼下にたくさんの家と走る車が見える。
「こんなにたくさんの人がいるじゃ無いか」
また誰かと出会うだろう。
様々な選択をして、今の自分があることを誇りに思おう。
またいつか誰かに会える。