【星の館】#4 ♈始まりの大地 アーネリア
ガタン…ゴトン…
っ…
目を覚ますと、私はまた列車の中にいた。
窓から差し込む光が眩しい。
隣を見ると…ヨルが窓の外をじっと眺めている。
ここ、どこ…?
「これから種まきの場所に行く」
種まき。
そうだ、種まきに行くんだ。
あ、鞄置いてきちゃった。
「種と地図ならここに」
ヨルが、ここ、と自分の座席の隣を指差した。
「持ってきてくれたの?」
「一緒に移動したからある。自分の手で持ってたでしょ?」
それで持ってきたんだ。でも、どうやってここに?
ヨルは、ちょっと悩むようなそぶりを見せてから、
意識移動、とポツリと言った。
「い、いしき…移動?」
聞きなれない言葉に動揺する。
も、もしかして私、魔法の世界にやって来ちゃった…!?
「安心しなよ。ここも同じ世界だから」
そうなんだ、ほっとした。
…じゃなくて、どうしてこんなすごいことができるの?
「館に行ったから。それで能力が使えるようになった」
能力が上がれば、みんな使えるの?
ヨルはこくっと頷いた。
そうだったんだ。
っ、ふあ~…
眠くてあくびが出る。
私、昨日辺りから寝てないんだった。
でも、身体は全然疲れてないんだよね。
ヨルがさっと立ち上がった。
「この辺りでまた意識移動を使うから、準備して」
う、うん。
訳はわからないけど、何とかヨルについて行く。
意識移動は、もうその場所にいる自分をイメージすると成功するらしい。
「広くて何もない空間をイメージして。そのままそこに立ってると思って」
??
よくわからないけど、とにかくやってみよう。
目を閉じて、集中する。
広くて、何もない、ところ…。
そこに立つ私…。
こんなイメージかな…?
すると、
…!?
ぱああっと、一気に視界が真っ白になった。
次の瞬間、目の前には、異世界が広がっていた。
ヨルは驚くそぶりも見せずに言う。
「"今"生まれたばかりの空間にきたよ」
「い、"今"生まれたばかり…?」
ど、どういうこと!?
目の前に広がる光景は、確かに私がさっきイメージした通りの空間だ。
そこには無機質な白いタイルの床のような地面に、お日様が照っている…
だけ。
という、何とも言えないゲーム画面のような風景だった。
「ここは元々"無い"空間だった。そこに意識をしたから生まれた」
???
ぽかん。。
あの、さっきから、何を言ってるの…?
「それがあると思ったらある。だから見える。
生まれた、というよりかは、"出現した"ってこと」
当たり前と言わんばかりにさらっと答える。
私は意味不明なヨルの説明にただただ呆気に取られるだけだった。
「じゃあ、ここに種をまくよ?」
ヨルはこくっと頷いた。
私は、ミチカさんから受け取った種が入った袋から牡羊座の種を取り出した。
そして、種をまく…
というか、土のようなものが見当たらないのでそこに種をそっと置いてみる。
「種をまいたらイメージする。この何もない空間をどんな世界にしたいか」
えっと…ここにイメージしたものがこれから生まれるの?
そう。とヨルは答える。
「牡羊座の種だから、"始まり"のエネルギーを持ってる。
この空間の最初のテーマみたいなもの」
最初の…テーマ…。
それ、私が決めていいの?
「いい。ここは共同創造の世界だから。一人だけが管理するってことはない」
共同創造?みんなで作っていくってこと?
「ミチカは、館に来てくれたみんなに創造の楽しみを伝えたいって思ってる。
それが種を持って色々な世界を周ること。
種まきだけならそんなに難しいことじゃないし」
一つ、気を付けて欲しいことがあって…と深刻そうな顔で言うヨル。
「イメージは、何でもできる。この時、自分の心に集中すると成功する。
悪感情のようなものを抱きながらイメージするのは辞めておいた方がいい」
悪感情?
「そんな気持ちを抱きながらイメージしたものはいずれ自分に牙を向く。その、あんたの過去の被害妄想みたいなやつだよ」
急に鋭く見抜かれてうろたえてしまう。
なんで、わかるの…?
「なんか、色が濁って見えるんだ。だからそうなんだなと思っただけ」
そう…わかるんだ。色…。
「だから、頭は単純な方がいい。大切なのは心だから。
いつもの感じでイメージしてみて」
よし、と心を集中する。
イメージするのは…
う、うーん…
私が、イメージしたいものは…
どうしよう、何も浮かんでこない。
「頭で考えてたら一生このままだよ」
そんなこと言われても…
「落ち着いて、深呼吸して。自分の好きなものを思い浮かべてみて」
「じゃ、じゃあ、漠然としたものでいいの?」
「漠然としたものでも、具体的にでもどっちでもいい。
これは"始まり"のための種だから、それがこの空間のテーマになるだけ」
…
あ!わかった!
ぱっと思い浮かんだものが出てきた。
それをイメージして…と
おっけい!
「終わったら、その種に水をかけるようなイメージをして。しばらくしたら芽が出てくる」
水をかける…こうかな…
じょうろを持った自分がいて、種に水をかけてあげるイメージをした。
「これで種まきは完了。この一連の流れが種まき活動のやり方。簡単でしょ?」
みんなこうやって、自分の世界を作ってるの?
世界って、一つじゃなくて大量にあるってこと?
それがただ、見えない人には見えないだけなの?
こくっとヨルは頷いた。
「まずは自分の創造した世界を楽しむことから始まる。
創造は人それぞれみんな違った自分の個性を発揮できる。種まきは一番最初に通る道」
そうか。みんなの創った世界がたくさんあるんだ。
まだかな、私のまいた種。いつ芽が出てくるかな。
「あんたはまだ初心者だから、芽が出るのに結構時間がかかる」
そうなんだ…
高レベルの人は?まさか、一瞬…!?
「意識の使い手なら一瞬。」
す、すごい…
そういえば、と思った。
ここに、名前付けたい。いい?
こくっとヨルは頷いた。
ヨルがクリスタルを持って、空中に何かを描いている。
何か道具を作ってくれるみたいだ。
ぴかっと光が出たと思ったら、
木でできた看板とペンが出てきた。
はい、と私に渡す。
改めて目の前で見るとびっくりする。
『アーネリア』
よし、と。
じっと芽が出るのを待つ。
そわそわして、もう一時間くらいは歩き回っている気がする。
この真っ白い地面にこれから自分のイメージが創られていくのだと思うとドキドキする。
「ここはもう少し時間がかかる。次の、牡牛座の種まきに行こう」
ここにはまた戻って来られるの?
「すでに意識した世界は意識移動で一瞬で行けるようになる」
へえ。なんだか、ゲームの世界みたいだね。
じゃあもう、自分の足で動かなくてもよくなるの?
ミチカさんの地図は?
「ミチカが作った地図は場所の確認のため。そこにイメージして行くために必要になる」
じゃあ、準備して。と言うヨル。
次は、どんなところ?
「ただ、海があって小さな陸があるところ」
次の世界は、どんな自分の創造ができるのだろう。
私は、私の未知の可能性にワクワクしながら意識を集中させた。