散歩
コロナで一週間くらい殆ど歩いていなかったから夜だし人もいないだろうからちょっと歩こうと思って、暖かいダウンを着てイヤホンをして去年くらいに作ったプレイリストをシャッフルして準備はまんたんということで、家を出たけれども近くのコンビニでハイビームを焚いている白いハイエースが目に入ってなるほどこういう激しいものというか、とりわけ自分の生を世界に誇示する蝉の区別のつかない鳴き声や深夜の国道をけたたましいエンジン音の残していくバイク乗りようなものとは区切りをつけて静かに自分の聴きたい音楽と特に変わらない夜のよく見えない街の中を歩きたくて、それらとは性質を異にするが大差のないえろい女や胡散臭い成金の人に見せるための体とかからも距離を置きたくて歩いていたのにこうも崩れてしまうのは誰も悪くなくて、ただ単にそうしたかっただけでそれと同じ世界を共有してしまっただけで、
路地に入ろうと思って曲がった先を少し歩くと白いベンツと黒いベンツが道路にむき出しに並べてあって、少し向こうにはくすんだ白の細い柵で仰々しく守られたブラウンの軽があった
空は相変わらず綺麗で星が見えた
眼鏡があまり合わなくなってよく見えないけれどもオリオン座は見えた、もっといろんな星座を知っていたらあの散歩もちょっとはふくみがあって楽しいものになっただろうけど、あいにく理科の授業で紙の上にある星座の点がただの点にしか見えなくて覚えていなかったからちょっと後悔した
明日から普通に毎日が始まる、いやもともとあった連続性からコロナを理由にその連続から解放されてとはいっても古くて腰が痛くなるベッドの上でだったけれど、
話を散歩に戻すと、その散歩は5分くらいで終わった
冬のサンダルはやっぱり寒いのと、どこをすすんでもその先がわかる必然性と見慣れ過ぎた景色に飽きたからで、散歩が趣味の人はどうなっているのだろう
朝早起きして散歩をすると多分毎日の生活にの一部に組み込まれた散歩をするおじさんを何人も見かけるけれど、彼らはイヤホンと手袋とどこで売ってるかわからない鳥が書かれた帽子をかぶって歩いているけれど何を考えているのだろう
街の微細な表情を読み取っているのか?ああケヤキの小さな葉が生えているなあとか、今日の水路には綺麗な鯉が二匹いるとか、東の太陽がいつもより角度が低いから水面がきらきらして目が冴えるなあとか?よく分からない
知らない町を歩くのは楽しい、知らない国、知らないお店、知らないトイレ、新しいことは目に入る度にそれらとの格闘が始まる気がしてやっぱり面白いよなあって思って見慣れた景色を見ながら帰った
おしまい