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カフェオレひとつ

「黒豆を一粒ずつ拾う食べ方、嫌いだわ」
待ってた弁当に手をつけた男の向かいに女が座ってきた。
「あぁ、嫌いなら構わない」
すぐにウェイターが水を運んできた。
「カフェオレひとつ」
男は黒豆を食べ終えた。
「あの頃のあなたならその器ごと飲み込みそうなのにね」
男は野菜をいっぺんに箸に挟んで口に運んだ。
「うん」
挟んだものを飲み込んだらこう続けた。
「今日の用件ってのはなんなの?」
「結婚することになったの」
男は肉を一気に挟んで口に入れたあと、漬物を半分つかんで口に運ぶ。顔はやや歪んでいた。
「そうか」
残りの漬物を口に入れたあと、ご飯を半分口に運ぶ。
「もう本当に好きにはなれないけど、結婚するには良い人だわ。」
男は黙ったまま煮物を噛み砕いた。男の顔は少し和らいだ。
「そうか」
残り半分のご飯を飲み込んだ。
「あなたは何をしているの?」
「何も変わらないよ。相変わらず」
「相変わらずって、仕事をコロコロ変えてて覚えられないってこと?」
男の顔がまた別の形に歪む。
「まぁ、そんなもん」
ウェイターが女の前にカップを置いた。
女がそれに手をつけようとしたと同時に男は立った。
「じゃあ、幸せにな。これの分も払っとくから」
女が持つカップを指しながら言った。
「久しぶりに会えたのに早すぎない?」
女は少し悲しそうに言った。
「あぁ、またあんたを好きになったらいけないからな」
男はよれたブレザーを着ながら振り向くことなくドアの方に向かった。

#くだらない
#妄想ストーリー
#おいしかったです

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