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人騒がせな奴
突然の電話
「もしもし、茉奈さんのお兄さんですか?私、〇〇交番の高橋と申しまして、、」
見慣れぬ番号は、光回線、不動産、危ない投資の勧誘など、面倒な連絡と決まっている。
「今すぐ妹さんの家までお越し頂けませんか?緊急事態です!」
4才下の茉奈とは、かれこれ3年程、音信不通だった。
徒歩5分圏内に住んでいながら、安否不明。
悲しみを通り越して、いつしか諦めの気持ちだった。
仕事中だが、急ぎアパートまで走った。
無残に散乱する衣服
野次馬たちの視線を浴びながら辿り着くと、電話の主が神妙な面持ちで告げる。
『お兄さん、どうか気持ちをしっかり持って。今、応援要請を出しました。』
『私の経験上、明らかに事件です。帰宅時に何者かに襲われ、拉致をされてしまったか、部屋の中で・・。』
切迫した声が、心拍数を上げる。
首筋から血の気が引くのを感じた。
覚悟はあった
3年も音信不通。
思えば、兄も妹も、恵まれない青春時代だった。
非行の末、
いつか、こんな日が来るだろうと、頭の片隅にあった。
いつか、妹の凄惨な亡骸を弔う日が来るんじゃないか。
兄は泣くまい。兄は泣かぬぞ。
ドアノブに手をかける
『ああ!指紋が付きます!触っちゃ駄目です!』
そんなこと、構っていられるか。
今は、1秒でも早く、妹の安否を確認しなければならない。
恐る恐る部屋に入りながら、一瞬、犯人と鉢合わせたらどうしようかとよぎったが、表には警察がいるのだから、大丈夫だと自分に言い聞かす。
なんの音だ?
キッチンからリビングに通じる襖の向こうから、地響きのような音が伝わってきた。
「ぐがーーー。ぐごーーー。」
んん?なんだこの音?
まさか犯人が現場で居眠り?
んなまさか?
意を決して襖を開けると、明らかに人が1体、布団の中で丸まっている。
そっと布団を捲ると、素っ裸の妹が、轟々と音を立てて寝ている。
お巡りさん!生きてます!イビキかいて寝てやがります!コノヤロウ!
『生きてる?なんだ!人騒がせな話だ!』
お巡りさんが一生懸命に説教をしているのを尻目に、踊り場に散乱したずぶ濡れの衣服と鞄を取り纏め、室内に放り投げた。
そして人目を避けるようにシレッと退散。
そういや、昨晩酷い雨だったな。
数年後に当時の話を聞いた。
その日は務めるキャバクラで随分飲んで帰ったが、途中雨に打たれてずぶ濡れに。
泥酔のため玄関前で全裸になったようだが、正直よく覚えていないとのこと。
全く、兄貴の気持ちも知らないで。